ネット小説。

山岡咲美

ネット小説。

 詩集『僕語り。』より



 第1詩『純粋に……』



 小説の事だけ考えたい



 打算もコミニティーも関係なく



 ただ面白い小説を書きたい



 誰がどう解釈しても



 ボクが面白いと思える物語を紡ぎたい



***



あの日、高校の卒業式の日、通学路で僕の人生は一変する。



「じゃね」


「また」


「大学で」


「明日どうする?」


「ゲーセン」


「卒業旅行は?」


「GoTo京都!」


孝道たかみち君は?」


 文芸部の沖風早苗おきかぜさなえが僕にそう聞いた。


「僕は家で小説書くよ」


 僕、斉籐孝道さいとうたかみちも沖風早苗も同じ大学に進学する筈だった、仲の良い友人もそこには居たがそれが僕とみんなが話した最後の言葉となった。



***



「オイ斉籐しっかりしろ!」

 保険医の久保美帆子くぼみほこが駆け寄ってくる。


「先生どうしょう?」

 沖風早苗は倒れた僕を抱え座り込んでいる、僕が軽い事に随分驚いている様子だ。


「取りあえず保健室へ、何時ものやつだ」

 ああまたか、これグチグチ言われるやつだ、僕は暗くなる視界の中でそんなことを思った。


「私も行きます」

 私も行きます?なんか沖風早苗って僕が主人公の小説のヒロインみたいだな……。


 えっと、どんなストーリーの小説だろう?簡単なのは文芸部を舞台にした日常系か?それともミステリー?恋愛物ってのもありかもだけど僕は恋愛小説ニガテだからな、ラブコメか?でも沖風早苗って、ラブコメのヒロインってより見た目、スポーツマンガの主人公って感じなんだよな、何で文芸部なんだ?あっ、小説好きだからか。


「沖風は授業があるだろ?永作先生、斉籐を保健室へ運ぶの手伝って下さい」

 担任の永作良吉ながさくりょうきちが僕の骨の様な体を抱えふわりと早足で歩く。


 そして風早苗はき去りにされるのであった。



***



「落ち着いたか斉籐?」


「え?ああ、はい、ここは……」


 僕はこの保健室のベッドが好きだった、とてもふっくらしていて洗いたての匂いがしてあったかかった。


「まったく、ほれ、コレ食べてろ」


「ども」


 久保美帆子が僕にチョコレートをくれる、クッキーと混ざったバータイプのヤツだ、僕は小さく返事をしてボリボリと食べる。


「ほれコーヒー」


「すいません」


 たっぷり砂糖とミルクの入ったコーヒーを飲み口の中のチョコレートを洗い流す。


「お前な、ちゃんとメシを食えと言わんかったか?」


「すいません」


 倒れた原因は貧血、それもご飯を食べて無いせいだ。


「また食費が本に化けたのか?」


「………」


「私は聞いているんだが?」


「………い……え」(ウソ)


「良いか斉籐、お前が本の虫なのは知っている、小説とやらを書いていると食べるのを忘れるのも聞いた、だが学校で倒れられると」


「迷惑ですよね」


「はあ……コレも食ってろ」


 久保美帆子はおそらく自分の昼飯らしいチョコパンを僕にくれた。



***



「もうビックリしたよ孝道君、いい加減にしてよね」


 その日の僕は午前中倒れ午後の授業もすっ飛ばしたのちちゃっかり文芸部には顔をだした挙げ句図書室で本を借り僕を主人公とした小説のヒロイン(仮)のクラスメイトで同じ文芸部の沖風早苗と家路についていた。


「でもワザワザ良いのに」


「久保先生に頼まれたの!家まで送れって!」


 監視かよ!


「あっ、ちょっと待って沖風早苗」


「何よ、斉籐孝道」


「コンビニよる」


「へー珍しい」


 何時もなら少し離れた安いスーパーに行くけどきょうは流石に無理。



「孝道さそんな甘いものばっかで良いの?」


 あんパン、クリームパン、ジャムパンにファミリーパックのチョコレート、お腹いっぱいになって頭を動かす食べ物達。


「何時もはチョコパンも買うけど今日は久保美帆子に貰ったしコレで良いや」


「孝道チョコパン好きだよね」


「僕はチョコパンが好きなんじゃなくてチョコ全般が好きなの!」


「ふーん……」


 そして僕は監視付きで帰宅を果たした。



***



「保健室、美人とは言いがたいが優しい保険医……」


 小久保美佐子こくぼみさこは秘密を持っている、それは夜の学校に潜り込めばすぐにわかる、何故ならば……


「何故ならば何だろ?」


 んー今日は調子悪いな、明日にしよう。


 僕は決して恵まれた家には育たなかった、だか高校は入るべきと言われたし大学にも行かせてやると言われた、ボロだけど高校の近くに家まで借りてくれた、校則が厳しくバイトが禁止なので切り詰めるしかないが読みたい本は後を立たない、問題はエンゲル係数(生活費における食費の割合)を減らす事で解決した、何回か倒れたけど……。


 ……会えてここで言うなら、僕は小説家になろうなんてだいそれた夢を見るほど子供ではいられなかったが空いた時間を見つけては本を読みあさりネット小説サイトに投稿をするくらいには野心もあった。


「うーん、こっちは文芸部の友達がいるからその分PV(ページビュー)閲覧数が伸びるんだけどこっちはなんか1人の人がスゴい読んでくれるサイトなんだよな」


 僕は友達がいる小説サイトだと実力がわからないとばかりに別のペンネームで他のサイトでも書いていたのだが、そこではなんだかスゴく読んでくれる人がいるのだ。


「でも本当にスゴい人はスゴいよな、ランキング上位の作家さんとか……何か自分の能力ちからのなさにウンザリする」


 それでも自分より沢山読まれてる人でさえ書籍かされるのは希で僕は更に可能性の欠片も見えない、いっそ書くのを辞めたらスッキリするのかな……。



***



「どうしたん?最近書いて無いじゃん」

 沖風早苗が教室で話しかける。


「ああ、何かスランプで」

 スランプでは無い書く気がないのだ。


「ふーん」


 そして僕は文芸部にも余り顔を出さなくなり、保健室に行く事も無くなり少しだけ太った。



***



「あれ?メール?」



ふうこ:もう書かないのですか?



「何時もの人だ、メール来たのは初めてだ」



道高刀斎:また書きたくなったら書くかも?



ふうこ:楽しみにして待ってます



道高刀斎(みちたかとうさい)は僕の名前斉籐孝道(さいとうたかみち)のアナグラムだシャーロキアンとまではいかないけどホームズのファンなのだ。


 なんだか気になる、待っててくれてるのかな?


「また書こうかな……」


 その人の居る小説サイトは恋愛メインのサイトだったので余り得意ではなかったがそれでも書きたいと思えてきた。



***



「こんなのはどうだろ?」


 夢を持つ2人が支え合いながらその夢を目指す演劇恋愛小説。


「約束したじゃない!彼方の脚本で舞台に立つって!!」


 彼女はそう言い、彼が高校の文化祭で書いた台本を、そのシーンを、一言一句違えること無く演じきって見せた!



***



「次はこんな感じ」


 対立する2つの国の王子と姫が王位の簒奪さんだつをはかる歴史絵巻とか。


「アーサー、私達が剣を向け合うのは歴史の必然なのよ!」


「違う!間違っているよ!歴史なんて物は僕らが選ぶことの出来るただの足跡だ!!」


 姫は忘れていた、王子が泣き虫だったのはもう何10年も前の事、あの小さなシークレットガーデンに迷い込み不安で泣いていたあの王子は今私を救う為にここにいるのだと。



***



「次はこうだ!」


 文芸部の男女が小説の書き合いでバトルする感じの日常系ラブコメ。


「良いから私の為に面白い小説を書くのよ!」


「イヤ、沖愛ソナエさん?僕の作家としての意思はどうなっているの?表現の自由は?」


「そんなものは認められないわ!」


 どうやら僕の意思も表現の自由もこの世から消え去ったらしい……。



***



 そして僕はたいして読まれない恋愛小説に無い袖を降り続けた。



***



「何かまた痩せてない?」

 沖風早苗が教室で話しかける。


「また書き始めたんだ」

 書くと痩せるシステムだ。


「ふーん」


 沖風早苗は僕の書く小説に興味無いのかな?



***



ふうこ:まだですか?



道高刀斎:執筆中です。



ふうこ:期待してます



道高刀斎:がんばります!



「………何か辛いな」



 ひと月程そんな恋愛小説三昧の日々が続いた頃だ、僕は慣れない恋愛小説を書き続けて疲弊していた。


「久々に文芸部の友達が居るサイトに書いてみるかな?」


 せっかく読んでくれる人がいるのに悪い気もしたが別にプロじゃないし好きに書けば良いよね♪


 僕は単純にそう思ったがそうではなかったらしい。



***



「アレいまいち!」

 教室で沖風早苗が僕の書いた小説をバッサリ切って捨てた。


「えーーー!リアルなレースものだと思ったら実はオモチャのレースだったってスゲーアイデアだろ!思いついた時めっちゃ楽しかったのに!」

 まったくPV伸びなかったけど、楽しんで書けたヤツだ。


「孝道、たまに恋愛物とか書くじゃん、そんなのは書かないの?」


「恋愛物か……」


 あっちのサイトの小説は恋愛物と言う事もあって少し恥ずかしくもあり文芸部の友達には秘密にしていた。


 恋愛小説は暫く見るのもイヤだな……僕は素直にそう思った、やっぱ書きたいもの書くのが一番だ。



 そして僕は楽しく書いて買う本の量を少し減らし少し太った。



***



ふうこ:どうして小説書かなくなったんですか?



道高刀斎:今は他に書きたいものがあるから



ふうこ:また書きたくなったら書いて下さい



道高刀斎:了解です。



 こんな返事で良いのかな?


「他にどう言えば?」


 もう書きません?


「イヤ!また書きたくなったら書くし、それは違うな……」


 でも誤解されたかも?


「どう伝えれば良いのか分からない……」



 コミュ力不足が否めない。



***



 詩集『僕語り。』



 第1詩『純粋に……』



 小説の事だけ考えたい



 打算もコミニティーも関係なく



 ただ面白い小説を書きたい



 誰がどう解釈しても



 ボクが面白いと思える物語を紡ぎたい



***



 僕は小説を書いた、自分の思いを詩に込めたのだ。



***



ふうこ:私はあなたの恋愛小説が読みたい



***



「…………」


 暫くこっちは休もう、書くも書かんのも自由だし……。


 僕は画面の向こうに居るのが感情を持つ人間だともっと強く理解すべきだった。



***



「ねえ孝道、この前言ったヤツどうなった?」

 教室で沖風早苗が話しかけてくる。


「この前?」

 何の事だろ?


「もう恋愛小説書かないのってヤツ」

 忘れたの?って沖風早苗は眉をひそめる。


「ああ、それねやっぱり小説はゆっくり好きなの書かんとダメって結論に成りまして」

 僕は疲れた表情ながら吹っ切れたように明るく笑う。


「ふーん……」



***



ふうこ:最近書きませんね?



ふうこ:どうしたんですか?



ふうこ:小説辞めたんですか?



ふうこ:戻ってきて下さい



ふうこ:取りあえず恋愛小説じゃなくていいです



ふうこ:まだですか?



ふうこ:スランプですか?



ふうこ:遅すぎます!



ふうこ:また書くって言ったのに



ふうこ:速く書いて!



ふうこ:何やってんの?



ふうこ:私待ってるんだけど



ふうこ:とか要らない



ふうこ:で書いてるの知ってるのよ



ふうこ:こっちでも書いて!



ふうこ:休んでもいいよ♪



ふうこ:私は彼方の恋愛小説が読みたいの!



ふうこ:何るの?



ふうこ:いいから書けよ!



ふうこ:倒れたっていいじゃない?



ふうこ:優しい保健の先生が要るでしょ?



ふうこ:また倒れて保健室においでよ



ふうこ:お金が無いならまた用意するから



ふうこ:チョコレート好きでしょ?



ふうこ:私甘いもの嫌いなのよ!



ふうこ:何時君が来ても良いようにチョコパン用意してたのに!



ふうこ:先生、待ってるから……



***



 僕は気づくべきだった、そしてメールのチェックするべきだった。


 知らないうちにこんな事に成ってるなんて……。



***



あの日、高校の卒業式の日、通学路で僕の人生は一変する。



「おっ斉籐、どうした1人か?」

 振り返るとそこには保健医の久保美帆子が車に乗り声をかけて来ていた。



ふうこ:1人に成るのを待ってた



「ええ、大学までの間は小説三昧ですよ」

 僕は軽く笑う。



ふうこ:恋愛小説以外のですか?道高刀斎先生



「卒業記念の大サービスだ、家まで送ってやろう」

 久保美帆子は何時もの口調何時もの笑顔で話しかける。



ふうこ:笑顔を崩さないように、計画が失敗するかもwww



「そうですね、久保美帆子先生には最後までお世話に成りますね」

 僕は車のドアを開け素直にこういを受けるとした、最近は保健室に行く事も無くなり少し久保美帆子と話したかった。





 気にするな私も話したい事があるんだ

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