エピローグ

 スガヤは毎朝、黒より早く起きて黒の頬を触る。

 

(よかった。今日も生きてる。)


 有翼人は人間に堕ちることで長く生きられないと聞いたその次の日から、朝になるとスガヤは黒の頬を触って生存を確かめた。


「・・・」


 触られる感触で、毎回黒は必ず目を覚ます。

 だが大体気がつかないフリをした。

 自分が目を開ければ、スガヤは触ることを止めて、何事もない顔をして身支度を始めるからだ。


「・・・」


 あまりスキンシップに慣れていないスガヤは、黒が触れようとすると大抵逃げる。それはまるで野良猫のようだった。


 だから黒にとって、スガヤから触りに来てくれるこの朝の一時が、一日のうちで最も心地のよい時間でもあった。


「・・・っ」


 とはいえ、毎朝触るだけ触ってそっと微笑むスガヤに理性のタガを外されることはままにある。


「・・・!」

「わっ!起きてたのか黒!」


 不意に黒い瞳は開かれて、スガヤの腕を掴むとそのままスガヤの上に股がった。


 自分の下に組み敷くと、スガヤはいつものように顔を真っ赤にして背けた。

 毎夜と同じ行為であっても、朝これをすると大体スガヤは照れながら怒る。


「ぐわっ!」


 そして毎度容赦なく金的を食らわされた。

 黒が崩れた瞬間に、すかさずスガヤは黒の下から抜け出でた。


「朝からいい加減にしろっ黒!・・・今夜一緒に寝てやらないぞ。」

「それは困る」


 黒はベッドに頬杖ついたまま楽しそうに笑っていた。


「ほら、笑ってないで早く起きろ。今日から傭兵団の見回りに参加する約束だろ?」

「おお、そうか。お前、それで機嫌がよかったのか。俺と一緒に仕事に行けるから、」

「・・・そういうことを口に出して言うな。」


 スガヤは照れくさそうに顔を背ける。


 その視線は、柔らかな光が溢れる窓の外へと投げられた。


「今日はいい天気でよかったな、スガヤ」


 黒の言葉に、スガヤはゆっくりと振り返る。

 そしてとても幸せそうに微笑んだ。




          ~遠い明日へ続く~


 

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漆黒の羽根の舞い散る夜に みーなつむたり @mutari

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