第2話 神に背くもの
手慣れた三人組だった。
性犯罪の常習者。何人もの女性をこうして犯して来たのだろう。
「いやいや。助けて!」
再び大声を上げる。
こういう演出こそ大事。
黒縁眼鏡は私の顔面を拳で殴った。
「静かにしろ」
そしてもう一発、今度は反対の頬に拳を振るう。
なるほど、直接的に暴力を振るって言いなりにさせてきた訳だ。
私自身は辛抱強い方だと思うのだが、やはり顔面を殴られると平静ではいられなくなる。性行為を楽しもうと思っていたのだが、そんな気は失せてしまった。
私の背中からロン毛が抱きついて来た。正面は小太り。黒縁眼鏡は、その汚らしい一物を私の顔へこすりつけてくる。三人一緒の意味が分かった。マニアックな行為を望んでいるのだが、思い通りにさせてやるのはつまらない。
もういいだろう。
私は全身から紫色の稲妻を放つ。
三人の男は感電し、「ぎゃ!」と短い悲鳴を上げた。
ビクビクと痙攣している。
殺しはしない。
とりあえず体の自由を奪っただけ。
私はスライドドアを開き、黒縁眼鏡を外へと放り出す。そして、小太りとロン毛の首根っこをひっ捕まえて車から引きずり下ろした。
三人の男は何が起こったのか分からないようで、目を見開き口を震わせている。感電し、全身が痺れて動かないにもかかわらず、股間の一物は隆々と猛っていた。これはこれで見事なものだ。
私は小太りの顔をヒールの踵で踏んずける。
「痛い。何をした。体が動かない」
「さあ?」
私は更に小太りの顔を踏む。ヒールが頬の肉を突き破り口腔内に入る。
「あがががが。やべて。いだいいだい」
小太りは目に涙を貯め、やめてくれと泣き叫ぶ。これまで何人の女性を襲い、暴行して来たのか。彼女達の嘆願には目もくれずやりたい放題してきただろうに、自分がその立場になるとこんなにも情けなくなるとは哀れだ。
私は奴の口からヒールを抜き、その鼻を蹴り潰す。
小太りの鼻から鮮血が噴き出し、それが喉へも流れたのだろう。血を吐きながらせき込む。
「何人襲った」
今度は黒縁眼鏡の顔を蹴り質問した。
「四・五人……」
私は黒縁眼鏡の口を蹴り飛ばした。
「嘘をつくな」
血と折れた歯を噴き出しながら黒縁眼鏡は悶えている。返事はできそうにない。
「わからない。三十人以上だ」
ロン毛が返事をした。
まあそんな感じだろう。こいつらが手慣れているレイプ常習者なのは間違いなかった。
「なあ。助けてくれ。謝るから。なあ」
しおらしくなったロン毛が嘆願してきた。
私が今宵の獲物を逃すとでも思ったか。
この馬鹿者め。
私はロン毛の首を掴んで強引に立たせた。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
何を勘違いしているのか、ロン毛はしきりに感謝し始めた。
頃合いか。
私は奴らに真の姿を見せる事にした。
全身から真っ黒な剛毛が生えてくる。額からは二本の角が肉辺をまとわりつかせながら伸びる。華奢な女性の体は骨格が急速に拡大し、筋肉も膨張していく。身にまとっていた僅かな衣類は破れて散り散りになる。
背中からは蝙蝠の翼が四枚開き、そして最後に黒く長い尾がにゅるりと伸びた。
真っ黒な剛毛に覆われた身長二メートル半の悪魔。
それが私だ。
ロン毛は大声で悲鳴を上げていたが、そんな事にはお構いなしに、私は大口を開け奴の頭からかぶり付いた。
ロン毛は断末魔の悲鳴を上げて痙攣している。
ああ。美味しい。
人間の快楽と苦痛は我らの栄養となる。特に、絶望した時ほどコクがあり味わい深くなるのだ。
黒縁眼鏡と小太りは信じられないと頭を振り、全身をビクビクと痙攣させている。失禁したようで、彼らのズボンは黒く変色していた。
もちろん、ロン毛だけで満足するはずがない。助けてと悲鳴を上げている黒縁眼鏡と小太りをそれぞれ頭からかぶり付く。
性犯罪の常習者。
その、狂った性的興奮と死への恐怖を同時に味わう。
ああ、美味しい。
これは何と言う美食だろうか。
この、高尚な食事について理解できる人間などいないだろう。
私は人の心を食う。
特に悪の心。神に背く背徳の精神が大好物なのだ。
ただし、私に心を食われた人間が死ぬことはない。記憶と気力を失い認知障害を引き起こす。まあ、社会に迷惑をかけない概ね善良な人間に生まれ変わると思ってくれればよい。
今夜の食事に満足した私は、再び人間の姿へと変化する。
私は悪魔。
神に背く存在でありながら、現世で自由に跋扈している者。
私の糧は人の心。
神に背く背徳の精神を美味しく食している者。
故に、神は私に自由を与えた。
次はどんな獲物が釣れるのだろうか。
私は毎夜、楽しみで仕方がない。
神に背く者 暗黒星雲 @darknebula
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