写真

煙 亜月

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 何もかの女を撮るのは初めてではない。鏡の前でメイクにいそしむかの女の背中は、楽しげな雰囲気すらをも僕に伝えている。

 

 気が進まない。


 50mmにしようか、105mmもいいか、でも135mmもいいかな。


 そうやってレンズを悩むふりして時間の引き延ばしをしているんだろ? わかっているよ、僕は滑稽なんだ。


 105mmのレンズをボディに着ける。

 ダイヤルを回し、撮影モードをマニュアルに設定する。

 次いで今日の天気、日光の明るさなどを考慮してホワイトバランスや絞り直などを設定する。


 ああ、苦痛だ。今ここで器材が壊れてしまえばいいのに。

 

 壊れてくれ。

 それもただちに。


「もう、なあに暗い顔してんのよ」

 かの女は笑顔で髪の毛をもてあそんだり、くるくる巻いたりして遊んでいた。

「カメラマンがそんなんじゃ、撮れる写真も撮れないよ」


 僕はふう、と息をつく。


「そこ座って。レフ板膝の上に置いて。グロス落ちてるけど大丈夫? あと、前髪それでいい? 鏡持ってくるね」


 付き合って三年半の仲だ。むろん撮り慣れている。けど、こんなの、慣れてないんだ。


 恋人の遺影を、今から一週間以内に撮らないといけないなんて。


 正面から証明写真っぽく、すこし動いてもらってニュアンスをつけて、ほかにさまざまな味付けで撮った。


「見たい」カメラを渡すと液晶を見ることもなく、いきなりレンズを僕に向け、三枚ほど連写した。


「ちょっと」


 かの女はからからと笑って、

「ふたりとも最高の遺影が撮れたね」

 と、悪戯っぽくいった。

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写真 煙 亜月 @reunionest

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