最終話 幼馴染は「なんとなく」

「話している内にどんどん不毛になって来た気がするんやけどな。なんとなく「こいつ、昔仲良かったなあ」とか「こいつ、昔仲良かったなあ」ちゅうのが、幼馴染て感じなんかもね」


 そもそも、定義を論じても意味がない話題ではある。


「そんなとこやろな。ただ、もう一つ腑に落ちひん事があるんやけど。「ただの幼馴染」って、言い訳あるやん。恋人と疑われたときやけど」


 また、可奈美かなみがめんどくさい話題を持ち出してきた。


「で、可奈美は何が言いたいんや?」


 いや、なんとなくはわかるのだけど。


「あれって、仲よーて、恋人かどうか疑われとるわけやん。「ただの」

って普通言わへん気がせん?「いや、友達だけど」とかならわかるんやけど」


 可奈美よ。それは、ちょっと野暮過ぎるぞ。


「まあ、仲良い相手を「ただの」はないわな。すっごい野暮やけど」


 ただ、野暮だとは言いつつ、気持ちは凄くよく分かる。実際、昔なじみに「ただの」幼馴染とか言われたら傷つきそうだ。


「そもそも、この二人ってほんとに仲良いんかいな!と思う場合も多いわけやし、「お約束」って流すのがええんやろな」


 しかし、まあ。


「なんか、不毛な話で時間潰した気がするわ……」


 そもそも、ある関係を幼馴染と呼ぼうが呼ぶまいがどっちでもいいこと。


「そもそも、りょーすけが振ってきた話やろ!」


 ぱちんと頭をはたかれる。


「そりゃそうなんやけどな。しかし、これは一般論やなくて、俺の話やけど……可奈美は幼馴染やけど、普通にエロいよな」


 Tシャツにハーフパンツというラフな格好のこいつをじろじろと眺める。

 主に、胸とか、脇とか。


「なんや。エッチしとうなったんか?」


 あんまり恥じらいもせずに、堂々と言う可奈美。


「おまえも、最初はもっと恥じらっとったのに……」


 男としては、あまり堂々とされると少し悲しい。


「その辺は、りょーすけも悪いよ!言うに事欠いて、「エロい」とか言われたら、恥じらう気持ちもなくなるっちゅーの」


 むむ。確かに、正論かもしれない。


「じゃあ……可奈美、その……可愛いな」


 少し溜めて、意識して言ってみる。

 顔もキリっとした感じで。さて、どうだ。


「ちょ、ちょい、それは恥ずいんやけど」


 おお。本当に照れた。言ってみるもんだなあ。

 そして、恥じらうこいつは普段の数倍エロい。


「ちょ……なんや、りょーすけ?目がギラついとるんやけど……」


「お前がそそるような仕草するのが悪いんや」


 じりじりとにじり寄りながら、開き直ってみる。


「未だに、りょーすけのスイッチ入るポイントわからへんわ……」


 呆れる可奈美。


 そうして、俺達の夜は更けていったのだった。


 こいつが幼馴染かどうかはどうでもいいけど、こうして、なんとなく俺たちの日常は続いていくのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染たちが幼馴染について語る夜 久野真一 @kuno1234

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ