第4話

 その小さくか弱いシルエットからは想像できないような、バリボリと石を貪る音がもふけから聞こえる。


 もふけが最後のかけらをごくりと飲み終えた瞬間、導現屋が光に包まれた。



「うわ! どうしたのもふけ!」


「導月さん! やばいぞこれ!」


「これに関しては私にも手の付けようがありません!」



 しばらくして光が収まった。それに続いて一同も目を開ける。そして開眼一番飛び込んできたのは兎だった。



「やぁ翔太。助けてくれて恩に着るよ」


「ん? 誰?」


「ちがうちがう! もっと目線を下に向けて……ああ違ういきすぎ!……そうそう……そこ! やぁ、僕がもふけさ!」


「えぇーー!!??」


「どうしたんだ翔太?」


「如何なされましたか?」



 どこからとも無く聞こえてきた声の主によると、少し積み上げられた荷物の上に鎮座しているのがもふけとのこと。しかもその声は他の二人には聞こえていないらしい。



「なんで二人には聞こえてないのかって? それは僕が脳内に直接語りかけているからね!」



 あまりの出来事に翔太の頭はパンク状態だ。一旦落ち着くと、翔太は導月へ質問を投げかけた。



「導月さん、もふけについて知っていることはありますか?」


「そうですね……。先程お話しした宇宙流れと月の石について、あとは生態と……あっ、そういえば祖父が」


「………?」


「私も遠い昔の記憶なので定かではないのですが……」

 


 そういって導月は語りだした。

 

 導月は小さい頃、祖父から月兎の存在を聞いた。その頃に聞いた質問で一つ印象に残っていた。それは月兎の変化についてだ。なぜ印象に残っているのかというと、すべての質問に明確に答えていた祖父が、唯一はっきりと答えなかった質問だからだ――



「おじいちゃん、月の石を月兎にあげるとどうなるの?」


「うーん……そりゃわしにもわからんのぉ……」


「なんで? 月兎ととっても仲良くなったんじゃないの?」


「いいか導月、親しき仲にも礼儀ありじゃよ」


「………?」


「はっはっはっ! 大人になりゃわかるはずじゃぞ!」――



 それは今の導月たちにとって最大のヒントとなる記憶だった。



「親しき仲にも礼儀あり……か」


「どういうことなの導月さん?」


「そうですね……何かがあるのは確実なんですが……」



 翔太が導月に問いかけるも、彼でさえわからない出来事だった。



「なに僕を置いて話してるのさ! 僕も会話に混ぜてよ〜!」


「ごめんごめん」


「なあ翔太、もふけに聞くのが一番早いんじゃないか?」


「それもそうだね」


「ねえもふけ、もふけのお父さんとかからなにか聞いた話ってない?」


「さあ? 聞いたこと無いね」



 もふけにしては素っ気ない返事に引っかかるものを覚えるも、翔太はもふけにも何か言えないことがあるのだろうと思い「そうかぁ」と返す。



「そんなことよりさぁ! 僕は早く月に帰りたいよー!」


「そういや、もふけってば本当に月から来たんだね……。石バリバリ食べてたもん……雑種の域越えてるよ」


「ふふん! 僕にできないことはない!」


「じゃあ月にも帰れるんじゃない?」


「うっ……それは無理なんだよ……」



 その後もふけは語り始めた。


 内容は大きく分けて二つ。

 一つは月に行くには月の石が必要だということ。

 もう一つは翔太の体を包むための宇宙服がいること。



「え?僕も行くの?」


「もちろん! 恩人にはおもてなしをしないとね! さぁ、行こう!」



 こうして「もふけ帰還大作戦!」は始まった。

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月の裏側 うゆ @uyu717

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