月の裏側
うゆ
第2話
あれから、翔太は高校三年生になった。中学の三年から背丈は変わらないものの、成績は伸びていった。今では学年順位、三位になるほどの頭脳を持っている。そんな翔太にはもう一つ変わった点がある。
「おはよう橋本〜」
「おはよう宇宙バカ」
中学の頃は「宇宙へ行くんだ!」と言っても誰一人何も言ってくれなかった。しかし、高校二年のクラス替えで橋本と出会った。彼は別に宇宙が好きでもない。それでも懸命に努力している翔太に、「頑張れ」と声をかけてくれだ唯一の友人であり、親友なのだ。
「なんだ、えらくご機嫌だな」
「おっ?わかっちゃう〜?気になっちゃう〜?」
「うざ、やっぱいいわ」
「そんなこといわずにさ〜昨日ね?」
「言うんかい」
漫才のようなこのやりとりはもう日常の一コマとなっている。
「三十年に一度しか見れないスパークルムーンを捉えたんだよ」
「おー、なんか凄そうだな」
「写真あるけど見る?」
そう言って翔太が見せたのは真っ白に光照らされた月だった。この現象は公転の軌道がずれることで、太陽と月がちょうど近づくために起こる。
「おーいつにも増して綺麗な白だな」
「でしょ!」
この日、翔太は夢へと大きく近づくこととなる。
放課後、翔太と橋本はいつもと変わらぬ帰路を歩いていた。
「にしてもこの帰り道変わんねえな」
「あと世界史のおっちゃんの話も」
「わかる。あれまじで先無いよな」
「でも昨日は地球の軌道若干変わってたよ?」
「どんだけ宇宙好きなんだよ」
いつもと変わらぬ雑談を繰り広げているとそこに、少しの変化があった。
「ん?今なんかガサゴソ言わなかったか?」
「そんなこと口に出して言う人少ないよ?」
「いや、そうじゃなくて。あそこの草むらでガサゴソ言わなかったか?」
「さあ?」
そう言っているうちにまた草むらがガサゴソと音を立てた。
「ほんとだ!」
「気になるからいってみようぜ」
「えー襲われても知らないよ?」
翔太に構わず橋本が草むらを進み行く。鬱蒼と生い茂る草むらを掻き分けると何かがガサゴソと音を立て逃げていく。
「さっきの音のやつだぞ」
「そうみたいだね……ほんとに追いかけるの?」
「当たり前だろ?ここまで来て引き返すってなったら余計気になるじゃねえか」
さらに掻き分け進むと少し開けたところへ出た。そこで翔太と橋本は謎の生命体を見ることとなる。
「これは……ハムスター?」
「いや、ほこりかなんかじゃねえか?」
翔太と橋本が見たものはハムスターともほこりとも似つかないものであった。
その謎の生命体は酷く怯えている様子だったが、翔太が手を差し出すとにおいをかいで敵意がないとわかるなり、身体を擦りつけてきた。
「ほら見て橋本!すりすりしてる!かわいいよ!」
「いや……大丈夫なのか……?」
「大丈夫だって」
翔太は未知の生命体に興奮しているが、橋本は冷静に疑っている。しかし翔太が害されたわけでもないので、自分も恐る恐る触れてみた。
「きゅい!」
「いてっ!」
「あははははは!橋本懐かれてないじゃん!」
「なんで噛みやがるんだよこいつ!」
「きゅー!」
「警戒してるからだよ。もっと心を開いて!」
「なんでお前はそんなに打ち解けてるんだよ!」
その後も橋本は触れようと試みるも結局触らせてはもらえなかった。
「なんでだよ。ここまで来ると悔しいじゃねえか」
「まあまあ、落ち着いて」
「てかそいつどうすんだよ」
「んー……飼う?」
「飼育方法わかんのかよ」
「いやまったく」
翔太はとにかく持ち帰りたいというほどに愛着が湧いていた。
「んじゃやめとけよ」
「この子の名前どうする?」
「おい。話聞いてんのか」
「もふもふだからもふけ!」
「おい!」
「きゅい!」
そんなこんなで謎の生命体改め、「もふけ」は翔太が飼うこととなった。
これが大冒険への一歩とも知らず……
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