第3話①

 あの後一旦翔太の家へ集まり、恒例の緊急会議が開かれた。



「それでは第二十三回、緊急会議を開きます」


「きゅい!」


「本当に緊急会議になったな」


「まあその話は置いといて、今回はもふけの生態調査を行います!」


「いぇーい」


「全然乗り気じゃないね……」



 橋本は駄弁る気で来ていたが翔太が思ったより生体調査に乗り気だったので言うに言い出せなくなってしまった……



「じゃあまず好物!何が好きなんだろ」


「さあ?ほこりの好物ってなんなんだ?」


「ほこりじゃなくてもふけ!とりあえず野菜でもあげてみよう」



 そう言って翔太はキッチンへ向かい、人参、白菜、じゃがいも、ほうれんそう、トマトの五つを持ってきた。



「さあ!お食べなさい!」


「きゅー……」



 もふけは恐る恐るといった感じで野菜の匂いを嗅いだ。すると人参とじゃがいもに興味を示した。



「こいつ事あるごとに匂い嗅ぐな」


「確かに。俺たちと会ったときも嗅いでたね。鼻がいいのかな?」


「においで危機察知する動物も居るらしいからな。こいつもその部類なんじゃねえか?」


「だからこいつじゃなくてもふけね!」


「あーはいはい」


「とりあえず食べやすいように切ってあげよう」


「きゅー!きゅっきゅきゅ!」



 翔太がキッチンから持ってきた包丁を取り出すと、もふけはシュッと素早い動きで橋本の後ろに隠れてしまった。その身はプルプルと震えている。



「ああ!ごめんね!別に取って食おうて訳じゃないから!」


「……」


「ね?ほら!包丁置いたよ!ね!」


「くー……」


「……」



 翔太がもふけを怖がらせてしまいテンパっているところ、橋本はというともふけの可愛さにやられていた。


 橋本は動物嫌いというわけではなくむしろ大好きだ。ただもふけに噛まれたことから嫌われているのではないかと不安になっていただけである。



「そうか、俺は嫌われてるわけじゃなかったんだな」



 もふけが自分の後ろに隠れてくれたことで信頼を得ていると感じ喜びを噛み締めている橋本、もふけを怖がらせてしまい嫌われないかと臆病になる翔太、包丁のギラリとした刃に怯えるもふけ。


 翔太の部屋は阿鼻叫喚だった……





 しばらくして皆が落ち着いたころ、翔太が話を切り出す。



「食べ物はもういいや。もふけを連れて外に出てみよう!」


「大丈夫か?ついさっき包丁に怯えてたんだぞ?」


「……僕が大丈夫なようにする!」


「頼りねえ……」



 翔太の頼りなさに不安になった橋本は一つ提案した。



「じゃあマフラー巻いていけよ。そうすりゃもふけも怖いもん見つけたら隠れれるだろ?」


「確かに!いい案だね!……てゆうか橋本いきなり優しいね?」


「うっせえな!早くマフラー持ってこい!」


「きゅ?」



 自分でも態度に出ているとは気付かず恥ずかしくなる橋本。翔太は橋本がもふけを少しでも気にかけてくれるようになって、嬉しく思っていた。





「うわー寒いね」


「……家戻らねえか?」


「ここまで来て戻るのは無いでしょ」


「きゅー……」



 探究心溢れる翔太と寒さに弱い橋本の意見は真っ逆さまだった。そんなことも知らずもふけは翔太のマフラーでぬくぬくだった!



 翔太一行は近くの商店街に来た。人通りは少ないが、商店街にスーパーがあったり、ヤバそうな雰囲気を醸し出す店があったりと日本でも珍しい商店街だ。ここならもふけもなにか興味を示すだろうとやってきた。


 だがしかし、もふけは一向に興味を示さない。とうとう商店街の終わりが見えてきた。



「全然興味持たんやん」


「いや、きっと何かに興味持つよ!僕たちに興味持ったんだから!」


「きゅ?」


「人と物とは違うだろ」



 などと会話しているともふけがいきなり鳴き始めた。



「ん?どうしたんだもふけ?」



 気になってもふけの方向を見ると、そこにはやばい雰囲気を醸し出す店があった……

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