第2話

そんな最悪なスタートを切った一日は、俺の高校生活を大きく変える一日となった。


俺の通う第九高校は「ロの字型」の三階建てだ。

南側に正門、下駄箱を持ち、西側に職員室、講師室などが並ぶ、通称「教師通り」。

東側に教室が並ぶ通称「学生通り」。

北側に部室や特別教室が並ぶ通称「放課後通り」。

どの部屋からも学校外が見えるようにと設計されたこの校舎にはあまり好かれない場所がある。

それは四方を壁に囲まれた中庭、通称「日陰の間」。

真ん中にテーブルとベンチを置いただけのそのスペース。

一応、校舎の壁にも窓がついているため、あまり圧迫感は無いが、日当たりは最悪。

加えて、中庭にも緑をとでも思ったのか、去年の改修工事でコンクリート床だった地面に土を入れ、周りに四季の木(西側に桜、南側に百日紅、東側に紅葉、北側に銀杏)を植えちゃったもんだから、あら大変、ただでさえ日当たりの悪い真ん中のテーブルには正午にもほとんど日が当たらない「暗闇の間」へ。

これには生徒も遺憾の意!! を示す度胸もないし、面倒くさいのでほとんど利用しなくなりました。


昼休み。俺は教室を抜け出し、そんな中庭へ宮川と来ていた。

購買で調達してきたパンを片手にテーブルを挟んで向かい合う。

そろそろ外界は蒸し暑くなっているのにベンチはひんやり冷えたままだ。

何処からか入ってきた風が二人の間をなでる。


「ずっと言いたかったことがあるんだ」

腰を下ろし、宮川が一つ目のパンに嚙り付いたところで俺が口火を切る。

「なんだ?こんなところに呼び出し、我の貴重な食事の時間を邪魔するのだからそれ相応の理由があるのだろうな」

カレーパンのルーを口の周りに付けながら、宮川が面倒くさそうに返事を返す。

「ああ。これを言い出す勇気を絞り出すのにそれなりの時間を使った」

居住まいを正し、俺は言葉に力を籠める。

そんな様子を見ながらも宮川の手と口は止まらない。

今度はクリームパンに手を付け、ハムハムと口を動かす。


また風が吹き、テーブルの上にあったパンのビニール袋をどこかへ運んでいこうとする。

慌てて手を伸ばしテーブルの上に戻し一緒に買ってきた牛乳の下に敷いてやる。

宮川は片手で礼の意を示し、少しうざそうに風で崩れていないように見える前髪を触った。

そんな様子をちょっと笑みを浮かべながら俺はもう一度姿勢を正し、口を開いた。


「嫌なら当然断ってくれていいし、それの覚悟は出来ている。ただ、ただもし」

「嫌だ。断る。お帰りはあちらから」

「もし少しでも良いと思うなら俺…えっ?」

まるで呼吸をするかのように自然に拒否された。

宮川は食べ終わったクリームパンの袋を名残惜しそうに眺めながら言葉を返す。

ただし、声とか態度は怖い。なんかオーラ出てるし…


「そのような茶番、我が仕掛けるはずなのに貴様がやろうとすること自体気に食わん。こんなところまで連れてきて、我と沙織の昼休みを奪ったことも気に食わん」


山口沙織。宮川の彼女。まだほとんど顔も知らなかった4月にクラス委員に立候補し、見事その椅子を射止めた世話好きのいい人だ。宮川が遅刻してきたときなんやかんやあったらしく、いつの間にか付き合い始めていた。美女だと思うが、それを口にするとなぜか宮川が怒り出す。


「まだまだあるぞ。貴様、芝居、下手だ。まるで告白するかのように見せたかったのかもしれないが、残念ながらそんな緊張感のなさでは相手にしてもらえん。我がどれだけ緊張したと思っている」

完全にお怒りのようだ。

俺は自分用に買っておいたクリームパンを供物として差し出す。

それを受け取り少し機嫌を直したのか、少し笑みすら浮かべて、袋を開ける。

「まあ良い。あんまり沙織とおると飽きられてしまうかもしれんからな。さて、下手な芝居抜きで要件を話してもらおうか」

仕方がない。本当はもっと駆け引きとかその辺を楽しもうと思っていたが俺の食糧のことも考えると素直にゲロッたほうが良さそうだ。

「実はな…」







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俺たちの旅先に君がいた。 淡雪 大我 @hidekiuma

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