Begin's Night
第1話
一年、六月。そろそろ友達もでき始め、学校に慣れ始めたある日の朝。
俺は自分の席に座り、出来るだけ前を見ないように外の景色を見ていた。
今の俺の席は一番この学校で景色が良いと評判の3階、真ん中の教室、一番窓側、後ろから二列目だ。
目の前には緑の城山と澄み切った青空。その割合は3:7。
窓を開ければ虫などが入ってくるデメリットはあるが、幸い去年の改装工事で窓ガラスが新しくなり、クーラーもついたため、窓を開ける頻度も減り、景色のキレイさは残るという神仕様。
空を飛ぶ一羽の鷹に悲しかろ~と思いを寄せながら、いい加減諦め、前に座る男と視線を合わせた。(ちなみに俺が教室に入るなり、何か言いたげにソワソワして、そろそろ限界なのか、今はチワワの化け物のような目でこっちを見つめている)
「おい真司、突然だが世の中は不公平だと思わないか?」
ずっと目を開いていたせいか(そうだと信じたい)少し涙をこぼして、顔を外に向け、男は語りだした。
「とりあえずおはようさんで、続きをどうぞ」
鞄を机の横に掛けながら、仕方なく続きを促す。これは聞かないと後で面倒なヤツだ。
「ああ、おはよう。世の中には勝ち組と負け組が存在する。具体的には、我は青春を謳歌する勝ち組、負け組の例を語るのは…」
「うん、よし、それ以上言わなくていいぞ。理解した」
こいつは宮川陽。なぜかいつも朝、俺の席の前にいるやつで、突然持論を話はじめては周り(主に俺)を困惑させる。
体形は残念だが、持ち前の明るさとおもしろさで彼女を早々ゲットしたという意味では勝ち組だ。
「まず、生まれると同時に大体顔が決まっている!」
「お、おう。そうだな」
お気に入りの姿勢なのか遠くの空を見つめる姿勢を変えず、また口を開く。
「次に遺伝子によって外見のステータスと運動能力が決まっている!」
「一つ目と被ってない?」
「小さい男だな、そんなんだからそうなるんだ」
俺の方をチラッと見て、そっぽを向く。
「どんなだよ!いや、そんな目で見るな!」
「なにか自覚がおありでも?」
「な、ない!そんなものないはずだ!」
一つため息をついて、また遠くを眺める。
「話を戻そう。そして最後に人と出会った瞬間、属性が決まる!」
「その話の終着点は?」
「貴様がおっちょこちょい属性なのに全くモテないということだ!」
何処か一点を見つめ、叫び出す。
「さっぱりわからん。どうして人の爽やかな朝に傷口に塩コショウをふって騒ぐことと、世の中の不公平が繋がるんだ!?」
「言っていいか?今がラストチャンスだぞ!いいんだな!!」
「これ以上の屈辱を与えられるならば言ってみろ!俺のライフはもうゼロだ!」
「教室に入ってくる前からズボンのチャックが全開いている!それはもう綺麗に全開だ!」
スッと教室の視線が俺に集まる。
俺も下を見て、気付く……
開いている……
いや、家を出てから開けた記憶は無い。それどころか履いたときからチャックを触っていない。
ってことはつまり…
「あーーーーーーー!」
朝の静か(?)な教室に俺の絶叫がこだました。
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