瑛宮の主

明日花

 風が止んだ。

 西から吹いてくる、伸び伸びとした清涼な一風が、ふ、と止んだ。

 よく凪いだ、春の明けの日のことだった。


 桜の樹の下で足を止めた黒髪の青年は、空を仰いで、穏やかになった空気を吸い込んだ。吐いた息は少し震えている。視線を横に向けると、淡い色彩の建物が無数に集まっているのが見下ろせる。桜の樹は、山の中腹にあるため、ここまで青年は半日かけて登ってきたのだ。

 

 城の尖塔も、小さいが見ることができる。掲げられてはためく旗も、とてもうっすらと。

 

 もう一度空を仰いだ。眼下の柔らかな色彩とは打って変わって、瞳いっぱいに映る、雲ひとつない蒼穹。

 その続く果て、東の地を思う。

 彼は彼方を見やり、口の形だけでそっと大切な名を紡いだ。

 

 宵闇を背に凛と立つ、強い光の名を。

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瑛宮の主 明日花 @kurarisuta

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