第14話

 僕はうなずくと、ランプをみつめながら、黙ってコーヒーを飲みました。

 でも今度は、ランプは何も語ってはくれませんでした。

 すると、あれはやっぱり、コーヒーが湧くまでの僅かの間に見た、夢だったんでしょうか。それとも、山の好きだったマスターの親父さんが、やっぱり山の大好きな僕にだけそっと教えてくれた、とっておきの秘密の話だったのでしょうか。

 コーヒーの香を吸いこみながら目をつぶると、あの時のことが、鮮やかに思い出されてきます。とくに、あの人の言った、

「祖国のみんなには、教えない方がいいんだ。」

という言葉が。

 コーヒーを飲み終えて、外に出ようとドアを開けると、つきさすように冷たい一陣の風が、ほほに吹きつけました。その時、僕は一瞬、大氷原の涯にそびえたつ、南極富士山を見たような気がしました。

 南極富士山は、きっと今でも、ブリザードに守られて、南極のどこかにそびえたっているのでしょう。僕も、あの人のように、内緒にしておいた方がいいと思います。

 なぜって、やっぱり富士山は、日本にあるのが正真正明のオリジナルだっていう方がいいですからね。

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南極富士山の話 OZさん @odisan

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