第13話

 今度は昼間で、あたりの様子もあの時と違って、あのおなじみの街並みでした。僕はぶらぶらと歩いていって、いつものように店のドアを開けました。

 すると、そこにはあのランプがあったのです。あの時のように灯は燈っていませんが、間違いなくあのランプでした。

 僕が入口に突っ立って、ボケッとしていたからでしょう。マスターが陽気に声をかけてくれました。

「やあ、ひさしぶり。どうしたんだよ、そんなとこに突っ立ってさ。早いとこ座んなよ。」

 僕は、ようやく我に帰って、ふらふらとカウンターの前にこしをおろしました。

「よう、どうしたの。まだ顔色が悪いよ。」

と言いながら、マスターはサイホンを火にかけました。

「うん、やっぱり風邪ひいちゃってね。ところでさ、あのランプ、あれいつからここにあるの。どうも、見覚えないみたいなんだけど。」

 僕が、できるだけ何気ない振りをしながら、そう言うと、マスターは、ひょいとふりかえって、あのランプを手にとりました。そして、そっといとおしむような手つきで、カウンターに置きました。

「ああ、こいつかい。こいつはね、親父の形見なんだ。僕は親父のことは全然覚えてないんだけど、おふくろの話だと、根っから山が好きで、年中山に登っていたそうだよ。そして、戦争の終わり頃に、軍の命令でどっかの山奥に探検に行って、それっきり行方不明になっちまったんだ。このランプはずっとあとになって、軍隊で一緒だったって人が、持ってきてくれたんだよ。」

 コーヒーをつぎながら、マスターは、ふっとためいきをつきました。

「それでね、その日を親父の命日にして、一時間だけこのランプに灯を燈すのさ。一時間だけ店の電気を消して、親父の好きだったコーヒーを、親父のランプの前に供えてやるんだよ。

 ああ、そういえば、ちょうどこないだ、あんたが来た時が、そうだったんだよ。」

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