(四)

 窓の外から差し込む太陽の光はすっかりなくなり、天井の蛍光灯が部屋の中を白く照らしていた。

 病室の中では、ベッドの上で顔を手で覆い、嗚咽している箕浦郁雄の声だけが壁に乱反射していた。

 西原七音は、ベッドに近づき若者の肩に手を置いてささやいた。

「恵美さんのためにも、頑張って生きて。きっと彼女も、そう思っているはずよ」

 そして、七音はドアを静かに閉めて病室を後にした。七音がいなくなった部屋の中からは、我慢しきれなくなった感情を最大に解放している若者の声が、扉の外にも聞こえてきた。

 描かれた絵は、作品にもよるが、多かれ少なかれドラマティックなものが多い。素人の目には被写体を描いているだけのように見える。しかし、肖像画に描かれた病室でガウンを着た女性とそれを描いた若者には、このカンバスに描ききれない程のドラマが詰まっていた。だからこそ、アートは興味深い。七音は病院の入口を出て若者の病室の方を振り返り、そう思いつつ、若者の今後の活躍を祈った。


(了)

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病室のガウンの少女【快盗広尾シリーズ】 【い-14】文学フリマ京都_筑紫榛名 @HarunaTsukushi

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