第4話「ついて来て」
少女はこちらの身なりを、足先から首元まで視線を巡らせ一瞬で確認する。
「今から言うことを今すぐ実行して」
文句は一切受け付けない、という強い意思のこもった口調で続ける。
「最初にズボンのポケットを確認して。何か入っていたらここで全て捨てなさい。次はスニーカーの紐を両足とも最初から全部結び直してほら早くッ!!」
いつの間にか腕を胸の前で組み、靴底をコツコツと地面に打ち付けている。その様子は苛立っているようにも、焦っているようにも見て取れたがそんなことを気にしている暇はない。
これ以上彼女の機嫌を損ねない様に急いで指示通り実行し、約1分程で終えた。こちらが準備を終えるのを確認するや否や、再び少女が口を開く。
「少し走るわ」
再び両手をコートのポケットに突っ込みながら、さらに付け加える。
「黙って私の後をついて来て。途中で後ろを気にする余裕はないから、私の背中だけ見て走ればいい」
最後にこちらを一瞥し、吐き捨てるように言った。
「言っておくけど私も余裕ないから。指示に従わなかったり、ついて来られなかったり、見失った場合は構わず置いていくから」
理由は分からないが移動するらしい。とりあえず彼女の後に黙ってついていけばいい、と。正直体調がすぐれないのであまり動きたくはないのだが仕方がない。
「行くわよ」
そう言って少女は小走りで、物音一つしない市街地を走り始める。彼女の姿を見失わないよう、こちらも彼女の背中を追いかけ走り出す。まだ何もわからないまま。
『見えるもの』を追いかけていたはずが、いつの間にか『見えないもの』に追いかけられていることに気付くのに、そう時間はかからなかった。
エーレンリード・フラワー @langage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。エーレンリード・フラワーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます