08「デウスエクスマキナ」(終)
桃島キイロはぶつぶつ何か呟いた。すると、青白色の霧のような何かが部屋を覆った。
「自分で掃除できないでしょう。貴女、体育棟を勝手に使うことはまあ、私も同罪なので黙っておきますが」
血の赤が、一瞬にして消えていく。
「体育棟には、他に誰か? 雫くん、煤沢さん」
「いないよ。」
「『51人目』って何だったんですか?」
「ああ、あれね。嘘、だって今日冬休みだし」
「え? 雫くん…なんでそこで嘘を言うの?」
「先輩は毎日ここに来てるだろうからわからないと思ってね、それに、交路ちゃんもなんか勘違いしてたし、面白くて。かくいう僕も勘違いしてたくらいだし。死体を見つけてどうでもよくなったけど」
「え? 死体って?」
私が割って入るのも悪いかと思ったが、ちょうどいい。
「多分どうにかできます」
職員室に戻って、呪文を唱えた。
すると、死体の傷はまるでもともとなかったというように消え去った。
「おはようございます。先生」
「ああ…。私はいまどうしてた…?」
「死んでいましたよ」
「………。思い出した」
まるで早口言葉、先生の口が目にも止まらないスピードで呪文を詠唱した。
余裕をもって、小言を言った。「三年になるまで、取り上げだ」
桃島先輩と煤沢先輩は耳を塞いでいた。
そうだった…、こいつは記憶の封印呪文をつかえる。そして、それに対抗する方法はしらない。
手帳を一冊適当に選んで、向こう側に投げた。
「よく読むことをおススメする。じゃあな」
今日は冬休みの最終日。だのに起きた時には15時を回っていた。
大きなあくびをしながら、ちょっとした己への怒りを呟く。涙がちょっと出た。
「ふざけるな」
なぜか二冊もある手帳を眺めながら眠気を取り払う。これは肉体に穿たれたルーティーンだ。
「呪文ってなんだよ、時が巻き戻るだって…? ふん、あほらしい」
「---------------------------」
しかし、何も起こらなかった。
いや、よく見ると、一滴だけふわりとすくわれた。
寝起きのあくび涙が逆流するとは。
一滴だけすくう 早山アンク @Aunk_Sayama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます