07「ブレード・1パーセント」

 4F、卓球室に続く階段から誰かが現れた。

 しかし、私の目線は煤沢と万水に夢中だ。だから当然気づかなかった。

 サクッという小気味いい音が鳴るまでは。まず連想するのは、切れ味。人を切る為の本物の刃について一片も知識がなかったから、未知を知る事による興奮。

 室内で、光量はさほどない。だが、その刃は鮮やかにも煌めきを纏っていた。まるで刃そのものが発光しているかのような主張。”私”を切り裂いたそれに、まさに魅了されていた。

「血。借りますよ」

 まさに事後承諾。そうか、東西南北の棟を繋げる連絡通路は1Fにだけ、というわけじゃないのか。そう気が付いて、意識を失った。


 だが・・


 私はそれまでとまったく別の場所に意識を保って、ただ佇んでいた。

 目の前には鏡がある。

 そこには私が映っているが、髪の毛の色だけが私より明るい。

 鏡の中の私は、ただ黙ってこちらを見ている。いまだもう一人との差異に気が付いていないようだ。

 この空間は、狭く暗い。黒い背表紙ばかりが入った本棚が備えつけられている以外には、なにもない。

 そして、それは私のもつ手帳によく似ていた。

 一冊手帳を開いてみると、同じ内容が描かれていた。しかし…。

 元柔道部という記述がすっかり抜け落ちている。

 別のを開いた。火の玉を生み出す”呪文”が記載されていた。

 別のは…。

 100冊以上ある手帳には、それぞれ99%同じ内容が記載されている。

 しかし、1%だけ違う。


 興味深い記述を見つけた。それは、私が気になっていた事に関する記述。

 万水雫が銃を所持する理由は『父親のお手伝い』らしい。しかし、父親の記述はどれだけ探しても見つからない。

 思うに、”私”がまだ見ていない知識なのだと思う。

 鏡の前に立って、一言だけ言おう。

「一昨日来やがれ」


 私は、自分の声で目覚めた。

 聞くによくある事だというが、私にとっては初めての体験だ。

「星の摩擦、異形なる等式の名で、赤色の活力へと下れ。翳り遠く、眩い影。”fehzranhuフェズラーフ”」

 失ったはずの血、いまや失ったはずの事実は無かった。

 立ち上がって、バレーコートを見る。そこには先ほどまでの5人に加えて、桃島キイロももじま きいろ先輩も居た。制服を着ていて、本来のキュートさが際立っている。

 それに万水雫よろずみ しずく。他の手帳の記述によると、こいつはそもそも探偵部の探偵役じゃない。本当の探偵は私で、目立ちたくないからゴーストライターを買ってやってるのだ。

しずくくん。よくやりました、そう個人的には思うけど、出葉いずはちゃんの調子が悪いときは、出しゃばらないほうがいいって思います」

 そして、万水と桃島は進捗をプログレスバーにして、50%”でき”ている。

「それと煤沢さん。呪文の課題はぜひ冬休み中に」

 空手部の鬼神と柔道部のアンデッドは、比べると雲泥だ。ダイヤグラムにして”100:0”で桃島の四連勝、先鋒vs大将が始まってしまう。まあルールが無ければの話だが。

 柔道で桃島先輩が強いという事は聞いたことないので、ぜひ、煤沢には寝技で攻めに出てほしい。人死にや暴力は好きじゃないが、二人の死闘はまあまあ見てみたい。

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