ただ時事ネタで世間話するだけ『百合ぽい』
赤木入伽
ただ時事ネタで世間話するだけ
二〇二〇年、十月初旬。
佐々木武蔵と冬木千歳のカップルらはリモート勉強会をしつつ、世間話で盛り上がっていました。
話題は最近のニュースなどから。
「足立区の議員も馬鹿だな。こんなこと言えば炎上するって分かんねえのかな?」
「分からないから議員なんてやってんじゃない?」
「おっ、なんか物事わかった人みたいな発言」
「だって政治家って問題発言するか、怒るか、謝るかの三つばっかしてるじゃない」
「それは確かに。『土下座しろおおおおお!』とか、『お前の負けえええええええ!』とかな」
「それは、銀行員だからね?」
「え、マジで?」
「うわぁ――。この馬鹿がもうすぐ選挙権持つと思うと不安だわ」
「え? ドラマ見てないだけで?」
「ドラマ以外も問題なのよ。さっきから『ここ分かんないんだけど』って質問も酷いのばっかだし……。まさか『方程式ってなに?』って聞かれるとは思わなかったわよ」
「いや、でも分からないものは分からないし。別にいいじゃねえかよ。馬鹿が選挙権持ったって」
「それだけじゃない。おとといのことも」
「おととい?」
「あんたが私に『I字バランスしてみてくれよ。スカートの下が見えるか確かめたいんだ』って言ったことよ。恋人同士とはいえ、本当にドン引きしたわ」
「いや、ちょっと待って」
「何か言い訳あるの? 弁護士がいる? それじゃ弁護人どうぞ」
「え? えっと、あれは、その、……ネットでI字バランスのイラストが流行ってたんだけど、描く人によってスカートの下が見えたり見えなかったりしたから、実際はどうなのかなって思って」
「どうなのかな――じゃないわよ。どうせあんたみたいな奴がトリキの錬金術師になるんでしょ。ちなみに私、このI字バランスの件は土下座くらいじゃ許さないから」
「え? 武蔵はおしまいDEATH?」
「そういう反省の態度がないところもおしまいよ」
「ゔ――」
「あんた、私の恋人としての自覚あるわけ?」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。土下座でも許してくれないんだろ?」
「そうね……、反省する気があるなら、さしあたって帰りにキットカット奢ってちょうだい。私、キットカットが小さくなったって聞いてショックなのよ」
「お前もショックで八つ当たりしてるだけじゃねえのか?」
「文句があるわけ?」
「ないです――って駄目だ」
「は? あんた今、なんて言った? あんたは自分の彼女にキットカットも買えないの?」
「あ、いや、今月は財布がピンチで……」
「ピンチって……あぁ、そういえば、あんたPS5買うって言ってたわね。予約とれたの?」
「いや、取れなかった」
「は?」
「えーっと、弁護させてもらうと……、PS5の予約は取れませんでした。しかも石原さとみが結婚して、しかもPS5の○と☓ボタンが逆になるって聞いて、いろいろショックが重なり……そんなときに角川の本を買うと、最大50%の図書券もらえるって聞いて……」
「爆買いしたわけ?」
「はい……」
「うわぁ……」
「えっと、その……」
「その時、自分の彼女に何かプレゼントとか、一緒にデートとか考えなかった?」
「……すみません」
「……ちなみに何買ったの?」
「いろいろ。前に話したラノベとか」
「……」
「あの……?」
「じゃあ、それ貸して」
「はい?」
「あんたが買ったラノベを私に貸して。五百円とか、せいぜい七百円だから、キットカットの代わりにはなるわ」
「いやちょっと待って」
「……」
「あの、俺もまだ読んでなくて」
「あ?」
「明日、持ってきます」
「よろしい」
「うう……くそぅ……」
「まったく、仲がいいんだか悪いんだか、わからないわね。このバカップルは」
「茶化さないでよ。っていうか、あんた、さっきからずっとなんかのゲームしてるでしょ! 私と杏里の会話に『ちょっと待って!』とか『うわぁ』とか割り込んできてうるさいんだけど!」
「いや、これが楽しくて楽しくて――あ! クソ! 何すんのよ! だったらあんたも道連れよ! あんたはここで、ふゆと死ぬのよ!」
「今は勉強会中よ! 遊びをすぐにやめなさい!」
「そっちこそ勉強会をやめなさい! あとサツキも弁護人なんかやめて、こっちに集中!」
「ちょっと待ちなさい! サツキもゲームしてんの!?」
「あ、うん……。文香がフォールガイズやろって言うから」
「フォールガイズなら俺もやりたい。ちょっと待って、PS4すぐつけるから」
「杏里もやめなさい! 文香もサツキも! あーもー!」
「まあまあ、恵もやりなさいよ。フォールガイズ楽しいわよ。裏設定じゃ中身がグロいらしいけど」
「知ってるわよ!」
と、そんなこんなでグダグダな勉強会は、グダグダにお開きになり、リモートゲーム大会になりました。
ずっと恋人を怒っていた佐々木恵。
恵に怒られていた俺っ子の武蔵杏里。
ずっとゲームをしていた冬木文香。
杏里の弁護人をしていた千歳サツキ。
ずっと仲良し四人組の少女たち――または、ずっと仲良し二組の百合カップルの世間話はいつもこのように続くのでした。
「ところで、杏里が買ったラノベって何? 面白いの?」
「“安達としまむら”って百合もの。ウィキには日常ものって書いてあった」
「“アダチとシマムラ”? 足立?」
「最初に戻ったわね」
ただ時事ネタで世間話するだけ『百合ぽい』 赤木入伽 @akagi-iruka
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