第32話 妹VS姉
妹の真帆さんに連れられて、俺は志保先輩のいる部屋の前へとやってきた。志保先輩だけじゃなくて二人のお父さんも居るってのが非常にネックだけど……
「お父様、連れてきましたわ」
「うん、ありがとう。真帆」
部屋の中には爽やかそうな男の人、そして制服姿の志保先輩の姿があった。
「どうして……キミが……」
「私が呼んだんだ。不出来な娘の不祥事を謝罪するのが親の務めだからね」
俺は志保先輩の隣に座り、真帆さんは志保先輩のお父さんの隣に座った。なんとも居心地の悪い空間だった。
「古賀くんだったかね。志保が随分とお世話になったね」
「い、いえ……」
「家出を黙認はしていたけど、こうやって人様に迷惑をかけるようなら辞めさせるべきだと思ってね。それでも、古賀くんにはお礼がしたいんだ」
「お礼、ですか?」
「あぁ、なんでも言ってくれ。お金でもなんでも、古賀くんが望むものをなんでも与えようじゃないか。愛娘を支えてくれたお礼だよ」
その時、真っ先に思い立ったのが、漫画みたいだなって逃避だった。お金でもなんでも、俺が望むものを与えてくれると言った。お金持ちになって両親を喜ばせるのもありだし、自由気ままに贅沢に過ごすのもありだろう。
「じゃあ……早速ですが」
「うん」
「志保先輩を、自由にしてあげて欲しいです」
「え?」
「ん?」
とても魅力的な提案だった。だから、その魅力的な提案に一番合致した魅力的な提案を申し出た。
隣で志保先輩は驚きの声を上げて、目の前の志保先輩のお父さんは眉をひそめた。
「古賀くん。キミが望むものは本当にそれなのかい?」
「はい」
「理由を聞いてもいいかね」
「俺にとって志保先輩は、大切な人なんです」
「君は志保と恋仲にでもなりたいと思っているのかい?」
「そういう欲が無いわけでも」
「それは流石に無理な話だよ。志保にはもう婚約者がいるからね。我々の家庭の都合もあるし、何よりそれが志保の為でもあるからね」
それが志保先輩の為。そんな事は一切考えていないだろう。いや、考えているのかもしれないけど、それはなんとも見当違いな、的外れな思考だ。
「なんでもって、さっき言いましたよね……?」
「物には限度があるとは思うがね」
そして暫くの沈黙。そんな沈黙を破ったのは、全く予想も想像もしていない高めの声音が響いた。
「いいじゃないですか、お父様!」
「真帆?」
「花の学生生活、残りの時間くらい一緒に居させてあげるのも」
「真帆、その先に望まれない結果が待っているのが分かっているのに、そんな茨の道を彼らに勧めるのかい?」
「このままじゃまた、姉さん家出すると思うし、お父様にとってもそれは良くない事案だと思うんだけど、そこら辺はどうなのかな?」
姉さんとは仲良くないと言っていた妹の真帆さんが、先輩の事を救う選択肢を提案していた。なら、先程の仲良くないって話は嘘だったのだろうか。
「それはそうだけど」
「なら、一旦ここは目を瞑るのが最適解じゃないかなって、私は思うかなぁ」
そう言って俺に向かってウインクをしてくる真帆さん。彼女は普通に美形で可愛いし、そんなあざとさMAXな仕草だけど、そんな分かりやすい可愛さに一瞬トキメキかけるのは必然なわけで、そんでもって俺の右足が誰かの左足によって勢いよく踏まれるまでがセットだった。
「少し、考えさせてくれないか」
そう言ってお父さんは席を立って部屋を出て行ってしまった。そこに取り残されたのは俺と志保先輩と真帆さんと、お支えの給仕さんのみになった。
「姉さん、少しくらい自分の意見言ったらどうなの?」
「…………」
「せっかく古賀さんが姉さんの事を思って言ってくれてるのにさ、そうやってまた誰かが助けてくれるまで待つの? バカなの? 本当」
冷めた口調で淡々と、そして陥れるように精神を蝕むようにキツい言葉を志保先輩にぶつける真帆さん。
「姉さんの勝手な行動で被害を受けてるのは、姉さんが考えている以上にたくさんいるんだよ。なんで私より頭良いのにそんな事も分かんないの」
《だから私、姉さんが嫌いなの》
二人の間に亀裂は確かにあった。志保先輩は一方的に言われたい放題で、何も反論はしなかった。ますます居心地が悪い雰囲気になってしまった。
「でも、古賀さんも大概ですよね。お父様に喧嘩売る人、私初めて見ましたよぉ!」
「喧嘩を売っているつもりは……なかったんだけど……」
「でも、そういうのすごい漫画っぽくてロマンチックで、私好きですよ! それこそ、姉さんには勿体ないくらいの人ですよ!」
「ダメよ。古賀くんは……私の……なの」
そんなやり取りの中、志保先輩が割って入ってきた。美少女と美少女の取り合いですか。悪い気はしないんですけど、そんなに優越に浸れる空気感でもなく、余計にピリピリしてるんですけど……
「なぁんだ、言えるじゃん」
でも、っと続けて、真帆さんは席を立って俺の隣までやってきて、俺の目線の高さまで屈んでこう言ってきた。
「私、古賀さんに興味湧いてきました!」
その時の真帆さんの笑みは可愛らしく美しい物だったけど、その瞳だけは笑っていなかった。
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《令和コソコソ噂話》
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何故か知らないけど年上美女にパンツ貰った挙句に、付き合いなさいと命令口調で言われたんだけど……? 能登 絵梨 @yuigahama
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