第15話 仕事場よこんにちは その13
首吊りのリハーサルの結果、ベルトが不安定だったので、ロープの残りやハンガー(だと思われる形の何か)で頑張ってそれっぽく体を固定し、気温や発汗状態で薬効が変化するのを嫌って暖炉の火を消し、突貫工事で掃除して天窓や内窓を開放した。
幸いにも、黄昏時を境に月が明かりになった。
「来るならそろそろだと思う。」
テリアが深刻な顔で言う。
「じゃあ、手筈通りに。」
俺がそう言うと、テリアは椅子で思い切り俺の頭を殴る、背もたれが砕けたのを目の端に捉えて、俺は意識を失った。
どれくらい時間が経ったのか、遠くの方で誰かの叫ぶ声がする。
程なく、ドサッと何かの落ちる音と、誰かの近付く音がして、俺は蹴り飛ばされた。
お陰で目が覚めたが、痛みで声が出ない。口の中も切って血の味がする。
薄く目を開けると、ライナーがテリアの首筋に手を当て、残念そうに首を振っているところだった。
ゲオルグが更に俺を蹴ろうとするのをライナーが制し、二言三言会話した後で足早に去って行った。
ああ、上手くいった。
馬の蹄の音が遠ざかるのを待って、俺はゆっくり立ち上がり、脈と呼吸を改めて確認する。
俺から見ても彼女は死んでいるようだった。
テリアの首から縄とフック、体を固定していたベルトを外して仰向けにした。
次いで、自分の両手を組んで、左手の甲をテリアの胸に当てるように狙いを着けた。
「除細動。」
現場に俺しかいないので声を出す必要は無いし、声を聞いて兄弟が引き返して来る可能性があったが、なんとなく言葉を口にした方が効果がありそうだったので、一言呟くように言うと、俺は左手の甲をテリアの胸に打ち付けた。
続けざまに、馬乗りになる。
10秒間に15回、胸骨の真上を圧迫する。
仕上げに顎を上向けて、テリアの口に息を吹き込む。
瞬間、テリアは俺から顔を背け、弱々しく咳をしながら俺を振り払った。
別に性欲でやっているわけではないので、それに従うと、カウンターの裏にあらかじめ汲んでおいた水をカップに注いで差し出した。
「あんた最低だな。」
それだけ言うと、再びゲホゲホと咳き込んで、ゆっくり口をすすいで、水を吐き、二口目から飲んだ。
青白い顔で俺を睨む。数分心臓が止まっていたのに、悪態を吐くとは大したもんだ。
「いや、こうしなきゃなきゃ死んでるからな。」
俺の方も口をすすいで水を飲む。
「知ってれば森に逃げる方を選んだのに。」
そんなに嫌だったか。まぁそうか。
俺は特に返事をせず、肩をすくめる。
「はじめてだったのに。」
テリアの顔が少し紅潮して見えた。回復が早くて結構。
「へっ、人口呼吸はノーカウントで良いだろ。」
「ジンコウコキュウって何!」
テリアが投げたカップはキレイな放物線を描いて俺の額を直撃した。
異世界転生した薬屋が麻薬王になるまでの話(仮) succeed1224 @succeed1224
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