Ⅳ 00:00:00
「どうも。MTE――
そして、小刻みに瞳を震わせて立ち尽くすターゲット(※お客さん)に、こちらの身分を名乗るとともに注文の品について説明した。
「……あ、ああ、頼んだ昼飯か……そ、それは、ご苦労だったね……」
ボソボソと小声で答えるターゲットの前で、俺は腕時計を確認する。
制限時間まであと00:00:00……。
カウントダウン設定のデジタルの文字は、俺が目を向けるのと同時に〝0〟になって止まった。
フゥ……どうにか今回もミッションクリアだ。
危なかった……もし遅れていたらクライアント(※料理店)に配送料をもらえないどころか、MTEの信頼も失墜させるところだった……「依頼があってから5分以内にお届け」という売り文句は、この俺にしてもなかなかにキツイ縛りだ。
「――それじゃ、またのご利用お待ちしておりまーす!」
料金を受け取った後、俺は居酒屋の店員のようにハキハキと元気よく挨拶の言葉を述べ、再びYATHCO製のバッグを担ぐとすぐさまその場を後にする。
ああ、ちなみにこのモスグリーンのバッグ、肩掛け鞄だと想像していた者も多いかと思われるが、じつは四角いリュックサックタイプのものだ。でなければ、デリバリーの料理を運ぶのに不便だからな。
ともかくも、ミッションを成し遂げた俺は誇らしい気分になりながら、奇異な眼で俺を見つめる行員や客達の間を縫い、今度はゆっくりと軽い足取りで正面入口の自動ドアから外へ戻ろうとする。
「すまなかったな。許せ。これも仕事のためだ」
そして、やむなく投げ飛ばしてしまった警備員に短く謝罪をすると、入口前で乗り捨てたままになっていたバイク(※バイセクル。自転車)を引き起こしてそれに跨がる。
「釈! 聞こえるか!? また依頼だ。今近くにいるのは君だけだ。一仕事終えた後に申し訳ないが、まだ行けそうなら行ってほしい!」
と、ちょうどその時、インカムのイヤホンに本部の土井からそんな連絡が入った。
「ああ、大丈夫だ。店は近くなんだな? すぐ向うんでそっちでナビをしてくれ」
正直、今のミッションで脚にも心肺機能にも疲労は溜まっているが、今度の任務(※宅配)も俺にしかできない代物のようだ。
俺はインカムにそう答えると、気持ちを切り替えて颯爽とバイクを漕ぎ出した。
俺はMTE――
外出自粛が求められる昨今のご時世、俺達の仕事はますます重要度を増してきている……この街の経済と宅配サービスは、命に代えてもこの俺が守ってやる!
次の制限時間まであと00:05:00……。
(05 -ZERO FIVE- 了)
05 -ZERO FIVE- 平中なごん @HiranakaNagon
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