眼鏡をかけたい
そのいち
眼鏡を掛けたいだけなんだ
ぼくはすごいことを知っている。
それは賢くて偉い人は必ず眼鏡を掛けているということだ。
だってぼくのお父さんがそうだから。
ぼくのお父さんは製薬会社に勤めている。
お父さんが開発した薬はたくさんの命を救うんだ。
ぼくのお父さんは賢くて偉い人だ。
だからお父さんは眼鏡を掛けている。
ぼくもお父さんのように賢くて偉い人になりたい。
だからぼくは眼鏡を掛けたい。
ただ困ったことにぼくの眼はすごく良い。
視力検査でも一番小さな「C」でも楽ちんに見える。
家族旅行で沖縄に行った時だって、お父さんとお母さん、それにガイドの人にすら見えないほど遠くのイルカを見つけたくらいだ。
それくらいにぼくは眼がすごく良い。
でも眼が良い人は眼鏡を掛けることができない。
眼が良いのに眼鏡を掛けるのは、伊達眼鏡といって、賢くて偉い人に憧れるだけの偽物になるからだ。
だけどぼくは眼鏡を掛けたい。
だからぼくは眼を悪くするために特訓をすることにした。
昔、ブルーベリーが眼に良いと聞いたので、それに近い大好きなファンタグレープを飲むのを止めた。どうしても飲みたくなった時には三ツ矢サイダーで我慢する。
他に緑を見るのも眼に良いらしい。
ぼくは緑から眼を背けるようにした。だからピーマンは絶対に見向きもしない。
ちなみにぼくのクラスには「緑山さん」という女子がいる。
名前に緑があるけど緑山さんは緑色をしていないので、緑山さんは見ても大丈夫だ。だからじゃないけど何故かぼくは緑山さんをいっつも見てしまう。
──と、こんなに大変な特訓を重ねても、ちっともぼくの眼は悪くならない。
ぼくの眼はすごく良い。
これでは月のクレーターの凸凹だって見えてしまいそうだ。
またもや困ってしまった。
ただこういう時は「餅は餅屋」と
お父さんは「そんなことに秘訣はない」と言うけど「大学受験で必死に勉強したら急激に眼が悪くなったな」とも言っていた。
ぼくは「なるほど」と同時に「やっぱり」とも思った。
ぼくの理論は間違ってない。
賢くて偉くなる人は眼鏡を必ず掛けるようになっている。
ならばぼくもお父さんに倣って勉強を頑張った。
確かにクラスで一番勉強ができるようになったけど、目が悪くなる様子はこれといってない。
テストで百点を取ったところでちっとも嬉しくない。
ぼくはただ、お父さんみたいに眼鏡を掛けたいだけなんだ。
眼鏡をかけたい そのいち @sonoichi
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