たった一人、国を守る英雄。魔女さま。
遠く離れた村に住む、特にこれと取り柄のない娘ジェシカは、突如として呼び出される。
なぜ自分が? こんな高級な馬車に乗せられていいの?
と、泣いて見送る父母を後に旅立った。
出逢って最初の問いは、「どんな味の魔女が好きか」。戸惑うジェシカに魔女レクシーは、屋敷の掃除係を命じる。
明るい性格のジェシカと、からかい上手のレクシーさんのやりとりが楽しく、ほんわかとさせられる文章です。
でも落ち着いて考えると、呼ばれた理由がなんだか分かりません。
しかし同じ屋根の下に暮らすうち、慣れ親しんでいくジェシカの気持ちはよく分かります。
けれど、やはり本当の目的はありました。それはとても……。
魔女レクシーの想いはとても複雑で、「うん、そうだね」とすぐに頷けるものではありません。
しかし真っ向から否定することもできません。
もしも私がジェシカなら、どう答えるだろう。どうもレクシーを幻滅させそうで怖いなと思います。
それは魔女とこの国に伝わる決まり。ジェシカは受け入れ、悲しみを乗り越えました。
とても切なく、レクシーの提案に乗りたくなってしまいます。でもジェシカの選択を否定できない。
どうか、どうか、魔女たちがその後も幸せでありますように。そう願わずにはいられませんでした。
突然、国を魔法で守る偉大な「魔女さま」に呼ばれた田舎の少女、ジェシカと魔女さま、レクシーとの交流と、受け継がれていく魔女の使命を描いた作品です。
一人称の文章には、気取らない素朴な雰囲気が滲んでいて、ジェシカの人となりがよく伝わってきます。
読んでいてとても心地いいものでした。
レクシーさまとの会話も、冗談と温もりに溢れたもので、二人の間にある繋がりが、お話として大袈裟なものではなくても、二人にとっては特別なもの、他の人との間にはないものであったのだろうなというのが、感じられました。
魔女に課せられた宿命は、なかなかに辛いものだけれど、それでも読んでいて悲観的な気分にならないのは、代々受け継がれてきた魔女と少女の繋がりが温かなもので、それが最期の時であり、また始まりの時でもある「魔女の味」にも感じられるからかなと、思いました。
独特な設定や世界観だからこそ、ストーリーは複雑ではないのに予測できません。
そこも、またとても魅力的でした。
少し残酷で、とても優しい物語でした。