第5話 あなたの好きなものは何ですか?
「懐かしいですね」
「ほんとですね」
付き合い始めてから4年。
僕たちは平日に社会人として働き、週末に会ってデートをする日々を送っていた。
今日は「久しぶりにあのカフェ、行ってみませんか?」という趣旨だ。
思い出の大学構内のカフェスペースで、僕たちは懐かしのドリンクを頼む。
「思ったより人が少なくて良いですね」
「週末ですからね。みんな休みを謳歌してるんですよ」
僕はカフェモカを一口飲む。彼女は目の前のロイヤルミルクティーから昇る湯気を眺めている。
「ね、せっかく来たんですし。久しぶりにやりませんか、あれ」
東雲さんが言う。
「あなたの好きなものは何ですか?」
昔とは逆に、彼女が先に訊いた。
「僕は〝ふたつ〟が好きです。他人と分け合え、共有することができる。それはとても幸せなことです」
僕が答えて、彼女が応えた。
「私は〝ひとつ〟が好きです。すぐ終わってしまうようでいて、いつまでも終わらない楽しみがあります」
彼女は言って。
「だから――」
自分のポケットに手を入れた。
「これからも西日さんの好きなものを毎日ひとつずつ、教えてほしいんです」
宝を一つ差し出すように、彼女はその両手に小さな白い箱を開いて僕の前に運ぶ。
その箱の中には。
中心に小さな光を湛えるシルバーリングがあった。
「……意味わかる?」
東雲さんは顔を赤らめて。
笑っているような泣いているような、そんな初めて見た表情でこちらを見つめている。
いや、本当に。
どこまで彼女は底知れないんだろう。
僕は大いに戸惑ったが、優秀な僕の指は勝手に彼女の両手を抱き締めてくれた。
「――喜んで」
関係グラデーション 池田春哉 @ikedaharukana
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