3 かえりみち
◆
からん、と澄んだ音を立てて先輩宅の門を閉める。
すっかり話し込んで遅くなってしまった。
空はもう日も落ちかけて、
「……」
この時間を表す語を浮かべてから、それを否定するように頭を振る。
そして足を踏み出した。
――ひた
さっきまでの先輩の話が脳裏をよぎる。
べとべとさん? いやそんなまさか。
再び歩を進めると、確かにひたひたという、少し頼りなげな
気味が悪いというよりは、どこか
「……べとべとさん、お先へお越し」
ひた、と一瞬足音が止まった。
その直後、ひたひたひたひたと、重なるほどに
途端に、ぞわっと鳥肌が立った。
足音がすり抜けていく一瞬、確かに
それでも、先輩の家の前で、先輩の至近距離でこんなことが起こっているのに先輩が出て来ないのは、その程度ということなのだろう。
あるいは、先輩は俺が自衛できていると信頼してくれているか。
どくどくと、心臓が大きく飛び跳ねて、思わず胸元を握りしめる。
そのまま、落ち着いていくのと同時に、疲労感に襲われる。
それが緊張から安堵へと切り替わったからなのか、それとも別の何かのせいなのかはわからないまま、足を踏み出した。
今度こそ、足音は聞こえなかった。
◆
某県某市で収集した話。
下校時に一人で道を歩いていると、
その時、あなたの後ろには足音だけの妖怪のべとべとさんがいる。
けれど、もしその足音を気味悪く感じたならば、こう言えばいい。
――べとべとさん、おさきへおこし。
ただし、絶対に振り返ってはいけない。
振り返ってしまったその時は、あなたの身の安全を誰も保証できない。
だって、そこにいるべとべとさんは、なんだって、できるのだから。
とりあえず、べとべとさん 板久咲絢芽 @itksk_ayame
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