舞台は小さな町のピアノ販売店。大都市の大型楽器専門店ならまだしも、こんな場所ではお高いピアノはそうそう売れません。
ピアノの道を諦め、お客の来ない店で手入れのためにピアノを弾いていた店長・平野の前に、ある日突然現れたのは……ひとりの男子小学生！

最初は迷惑がっていたものの、やがてピアノを通じて小学生・七海と心通わせるようになる平野。
もう、ここから先が…ほっこり、あったかくて、どうしようもないんです。（語彙）

小さなひとりの少年が、腐れていた平野の人生を変えてしまった。
しかし、幸せな時間は永久に続くわけではなく……

とても読みやすくてあっという間に読み終わってしまうんですが、短いお話の中に出逢いと別れ、それぞれの大切な想いなどがぎゅぎゅっと詰まってて。

はあ……ほんとに、尊いです。（これが言いたかった）

例えその先に、自分が思い描いていた大きな道がなかったとしても。
後ろから誰かがやってくることで、小さくとも面白い通りが見えるかもしれない。

挫折し、音楽家ではなく、ピアノ販売店で働くことになった大人と、
ピアノを弾きたいと願った子供のお話。

子供が大人になった時、二人の関係がどうなるかは……読む人の想像力が試されるのかしら？(笑)

BL物は、会話の冗談のネタとして好きだったのですが、
実際の作品は、妙にギラギラした作品ばかりにしか、
今まで、出会えなかった為、

『オレは、一生、ノンケを辞める事は無いな』
と、思い込んでいましたが、

この作品で奏でられる『響き』が織りなす『旋律』は、
驚く程、とても綺麗で、優しく、

『ウリィィーーッ！！　オレはノンケを辞めるぞ！！　ＪＯＪＯーーッ！！』
と、叫びそうになりそうでした。


本当に、綺麗な作品でした。

ピアノを習ったことがあったり、弾いたことがある人は、今どき沢山いると思います。中には『自分なんかが音楽を続けていいのだろうか』とか、『ピアノを好きなのが苦しい』とか、葛藤して嫌になってしまう人もいますよね。そんなピアノに悩める主人公が、やはりピアノを通した出会いに救われる物語です。
読了後に残る温かさに、勇気を貰えます。

音楽の道で折れ、それでもピアノに関わり続ける男性。そんな彼が何気なく弾いたブラームスに魅了された小学生がいた。束の間の師弟関係が紡ぎ出す終幕は多分、現実では夢なんだろう。でも、あったらいいな、と感じさせる優しいストーリー。生活、仕事、その他、雑多な「生きること」に少し疲労を覚えた方には効きます。

ピアノを愛し、その世界を目指しても輝く世界で人々に注目されながら活躍できるのは、ほんの一握り。
でも、ピアノは決して成功者だけのものではなく、ピアノによって傷ついたり挫折した人でも、細く短く繋がっていさえすれば、何かをもたらすものである。
それが、人生の潤いであったり、やりがいであったり、人との出会いであったり。
一見、華やかでないと感じるピアノの裏側でも、やはりピアノに紡がれた人生模様が見える、そんな作品です。

小さな町の、全然売れないピアノ店。
そこで働く男は、自らの音楽の才能に絶望しているが、ふとしたことで出会った子供と、ふたたび夢を見はじめる。

夢を持つことと絶望。
音楽に溺れることの切なさに加えて、小さな希望を育てていく喜びを感じさせてくれる小品です。
全編を通して、バックにブラームスが流れているような。
やさしいお話です。

BL風味も「ほのか」にあり。
書き手のゆるやかな世界観に最後まで流されましょう。