大統領選挙-part 1、オクトーバーサプライズ

龍玄

大統領選挙-part 1、オクトーバーサプライズ!

 「いよいよ、討論会ですね」

 「ああ、バイトを徹底的に攻め立て潰してやる」

 「ほどほどに」

 「やるからには奴の化けの皮を剥いでやる」

 「畳掛けるにしても理論的に…と言っても無駄そうですね」

 「理論など通じる相手ではない。理解できないからな」

 「それでも民衆は納得するかと」

 「本当にそう思うか?マスコミは上げ足を取って責め立ててくるだろう。バイトと組めば儲かるからな」

 「民衆はそれほど愚かではないでしょう」

 「そう信じたいね」

 「私から言わせれば、あまりにも過酷な選択肢しかないのが不幸かと」

 「それでも私のブレインか!うん、その言い方は、何かあると言うことか」

 「分かりますか」

 「で、何だと言うのだ」

 「討論会は三回ある。一回目は一方的に殴りますか。そうすることで強さを見せつけますか」

 「それはいい。尻尾を腹に巻き込ませキャンキャン吠えさせてやるか」

 「そうですね、それでいきましょう。反論もユーモアもないバイトに民衆は拍子抜け、いや想定内の落胆を浮き彫りにするでしょう」

 「バイト指示の奴は、中共と甘い汁を吸う者と私を心底嫌っている奴らだ」

 「そうですね。それを明確にすることで今、取りこぼしている票を炙り出しましょう」

 「炙り出してどうする?」

 「二回目の討論会でこれからの具体的な問題を提起し、奴の無策、無能さを露呈させましょう。また、バイトの対応・態度で複雑な外交の現場は乗り切れない。バイトになれば弱いアメリカになることを民衆に植え付けてやりましょう」

 「徹底的にな」

 「お手柔らかに」

 「ふざけるな!叩き潰す。二度とリングに上がれないようにな」

 「興奮して暴言を吐けば、どうなるか分かっているでしょうね」

 「そんなもの恐れることはない」

 「もう時間がないのですよ、くれぐれも慎重に」

 「暴言のひとつや二つ吐いても、それを何とかするのが君の役目だ」

 「イエッサー」

 「ふん。まぁいい。それで三回目は、討論すればいいのだな」

 「馬鹿を演じた後、賢者を演じる。民衆は混乱するでしょう。その混乱は、不安要素のいくつかを払拭させ、あなたへの見方も変わるでしょう」

 「そう上手くいくかな」

 「行かせるのですよ。痴呆老人に任せる危険性をね」

 「任せて於け、叩き潰してやる」


 そこへ側近のパールが飛び込んできた。


 「何だミーティング中だぞ」

 「これは失礼。でも、採れたての情報ですよ、要らないなら、これで帰ってもいいですよ」

 「何だ、言ってみろ」

 「最初からそう言えばいいのに」

 「で、何だ?」

 「面白い事実を掴みましたよ」

 「だから何だ」

 「バイトは単なる操り人形になる、と言う事実ですよ」

 「操り人形?そらそうだろう、原稿に書いてあることしか話せないからな。うん、待てよ、それってカンニングってことか?」

 「そうです。ピンマイクに骨伝導イヤホンで外部人間の指示を得るってことです」

 「おお、それは好都合じゃないか。骨伝導イヤホンでのやり取りを妨害しつつ、おろおろさせてやるか」

 「それより、身体検査の要請を打診すべきでしょう」

 「そうするか。パール君、頼んだぞ。こちらが情報を掴んだことは伏せて於け」

 「分かっていますよ」


 

 パールは身体検査の要望を主催者に申し出たが、バイト側は断固と拒否。


 「拒否したか、これで決まりだな」

 「そうですね。討論会の映像で工作を裏付ける証拠を探し出しましょう。言い逃れが出来ないようにね」

 「ああ、そうするためにも奴を混乱させ焦らせる必要があるだろうな。面白くなってきたぞ、ばんばん責め立て、外部とのやり取りが出来なくして、機械を確認させて見せるわ。その時がボロを出す時だ、見逃すなよ」

 「そうですね。私からはカメラマンに民衆に姿をよく見せるようにアップを多めに撮るようにさり気なく要請しておきましょう」

 「嫌われ者の私を取るより、おいぼれじじいを撮れといいておけ」

 「本当に敵を作るのがお好きなようで」

 「五月蝿い。平穏何て糞喰らえ。波風を立てたから、各国からの指示を得ているのだから。これが私だ」



 カードとパールの罵りあいから討論会はスタートした。

 司会者のマックは両者を治めつつ、カードに多くの質問と追及をした。一方、パールには当たり障りのない質問をし、追及の手を出さなかった。嫌われ者を自負するカードは1対2の戦場だとこの場を理解した。

 カードはマックが敵だと認知すると徹底抗戦に踏み切った。パールやマックの発言に悉く噛みついて見せた。

 マックがカードに会合に多くの者が参加したとあるが真実とは違うのではと質問されると、パールは集まりもしないと切り替えし、笑いを誘った。

 舌戦は激しさを増していった。すると、パールに可笑しな行動が見られるようになってきた。質問にまともに答えられない。カードから視線を外し、カメラに目線を向け、手ぶりを付け加え、訴える。まるで人形の様な不自然な姿で。

 それを見てカードは声を大きくし畳掛けてパールを罵倒し続けた。騒音の中の会話。パールは骨伝導イヤホンからの音が聞き取れず、思わず機械の不具合を疑い、セットされた位置を確認した。それがカード側の思惑だった。

 討論会は史上最悪の、が見出しについて報道され、カードが仕掛けた茶番劇としてカード指示を下げる報道がなされた。

 そんな時、ある投稿が民衆の間で話題に上がっていた。


 「上手くいっただろう、ちゃんと捉えたか」

 「ばっちり、捉えましたよ。直ぐにSNSに投稿して拡散させます」

 「ああ、頼んだぞ」


 カード側の思惑通り民衆が食いついた。瞬く間につまらない討論会は、面白い出来事と化した。


 「操られるパール」「メカパール」「操っているのは中共のドンか」「やはりパールには原稿がなければ討論会は無理か?」「やはり痴呆症か?」「打たれ弱い」など、面白おかしくパールに対する不信感を煽り立てた。


 「炎上してますよ」

 「いい気味だ、もっと油を注いでやれ」

 「そうですね」

 「民衆とは退屈を嫌う。私を嫌うことでストレスを発散していたものも、喜劇のヒーローが現れたことで、関心はそちらに向くだろう」

 「そうですね。民衆は気まぐれですから」

 「次回が楽しみだな、どんな手立てを打ってくるのか。身体検査も嫌疑を晴らすためには拒めないからな」

 「そうですね」


 圧倒的に不利だったカードへの民衆の評価は、パールの行動のユーモアに取って代わられた。


 「うわははは」

  

 どこからかカードの高笑いが聞こえたような…。


 それが一変する。大統領選に付き物のオクトーバーサプライズが今回も起こった。

 カードの中共ウイルス感染が判明した。選挙真っただ中の出来事に事態は動く。

 カード陣営は、大統領を襲ったのは中共のウイルスだ。これは生物的兵器による攻撃だ、と騒ぎ立てた。アメリカは中共に攻撃された。その中共と深い関係を持つパールを支持することは、アメリカを中共に支配されることだ、とはやし立てた。

 

 カード大統領、中共ウイルスに感染。のニュースは世界を駆け巡ったのと同時に、問題を棚上げにされていた西朝鮮の銀正恩からの電報が届くサプライズも含め、各国から労いの電報が届いた。これには、日頃、五月蝿いマスコミも沈黙を余儀なくされた。日本でも同じことが起こっていた。批判されていた安倍政権は辞任をきっかけに支持率を大幅に上げた。その注目度はアメリカでも例外ではなかった。今、トランプを叩くことはマスコミにとって有り難くない状況を招くことは必至だ。と、言って、擁護すれば、マスコミのカード批判の往く手を阻みかねない窮地に追いやられる結果となる、痛しかゆしの状態だった。

 それでも重箱の隅を楊枝でほじくるようにカードの症状の発表の食い違いを取り立て混乱を招いていると騒いで見せる。

 これは取材能力のなさを露呈していることにマスコミは気づけないでいた。民衆はマスコミの情報に脆弱さを悟ることとなった。


 これらの報道を苦虫を潰した顔で静観していた者がいた。アメリカとの関係が悪化し、出口が見えなくなった中共のドンは薄氷を踏む思いで現実と向き合っていた。

 もし、カードが回復し復帰すればしたで、中共からの攻撃を受けたと豪語するだろうし、万が一亡くなれば亡くなったで全米を敵に回すだけでなく、世界を敵に回す考えたくもない事実が待ち受けている。

 その危惧はいつも強気の相手を見下す中共の姿に変化を齎した。

 アメリカと親交のある隣国である日本への譲歩とも捉えられる対応だ。

 安倍総理辞任の後継者ガースーは、就任挨拶にある策略をもって臨んでいた。

 焦らして焦らして焦らしまくり、缶国より後に挨拶を行った。その電話の内容はガースーの率直な意見を中共が反論できず聞くだけのものとなった。中共は物を言う日本を実感した。中共は外相の王 毅との会談の約束を取り付けることに躍起になっていた。飴と鞭。ガースーはこれを上手く生かし、主導権を握った。

 同時にこの結果次第では、反日教育で思考がお花畑になっているもう一つの隣国への抑止力として使えるのは言うまでもない。その隣国が少しは思考が働くならの話だが。嘘に嘘を塗り重ね、もう、すっかり真実が見えなくなった隣国には何ら期待を寄せてはいけない。約束と言う思考は隣国のふたつにはない。あるのは、リードを付け、行動を制限することだ。

 カードが築き上げた反中共は、崩すことなく邁進させなければならない。そうしなければ最悪の再発を導くだけだ。

 選挙中のアクシデントを如何に活かせるか、今後のカード陣営の出方が見ものだ。

 


 

 

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