マインドブレスレット ~ロストビジョン・セリア~
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マインドブレスレット ~ロストビジョン・セリア~
セリア ウィルテット。
闇の大陸の中心となるディアラット国の第二王女。
子供の頃から引っ込み思案で、家族以外の人と話すことがとても苦手な少女。
言わゆるコミュニケーション障害だ。
その性格故、大勢と共に過ごすよりも、1人でいる方が落ち着く。
友人にも恵まれないため、誰かと遊んだりすることもない。
6歳の頃、両親の意向で学校に通うことになった。
そこは上流階級の人間が通う由緒正しき学校であるが、設備が少し充実している点以外は、普通の学校と同じであった。
ある日、母親であるルビがとある事件に巻き込まれて命を落とした。
母親と特に仲の良かったセリアはそのショックから、自室に引きこもり、不登校になってっしまった。
ルビが亡くなってから2週間ほど経過したある日……。
「セリア、お前に紹介したい子がいるんだ」
父親であるゴウマ ウィルテットは、少しでも娘の心を開かせようと、使用人として雇った同年代の少年、ゼロンを付き人として紹介した。
表面上は普通に人と接しているが、彼はとある理由で人に心を開くことができないでいる。
似たような性格である彼なら、セリアの良き友になれると思ったのだ。
最初こそ、お互いロクに目も合わせないようなよそよそしい関係だったが、一緒に過ごしていく内に徐々に会話するようになるほど打ち解けて行った。
「ゼロン。 今日、城の図書館に面白そうな本が入ったの。 ゼロンも読んでみない?」
「ぜひとも読ませてくれ。 セリアが進める本なんだから、間違いなく面白い本だろうね」
お互いに呼び捨てで呼び合い、セリアにとっては普通に話をすることができるほど、心を開ける友達であった。
ゼロンも最初は良き友達としてセリアと接してきたが、それは成長と共に徐々に変化していった……。
その後、14歳になったセリアはどうにか学校に通えるようになった。
だが、娘が心配であったゴウマは、ゼロンを特別枠として転入させてもらえるようになった。
セリアの通う学校は、上流階級以外にも、ある程度学力が高ければ、階級関係なく入ることができるのだ。
元々、頭の良いゼロンは見事転入を認めてもらえた。
ゼロンが転入してきたおかげで、学校でずっと1人であったセリアは話し相手ができた。
クラスは別だが、休み時間や下校ではいつも一緒にいるため、セリアはとても心強かった。
だが、それも長く続かなかった……。
ある日、1人の女子生徒プリクラがゼロンを校舎裏に呼び出した。
プリクラは学校でも人気ナンバー1と言われるほどの美少女で、しかも資産家令嬢。
男からすれば、これ以上の相手などいないだろう。
一方のゼロンは、成績優秀で運動神経も抜群、おまけに整った顔立ち。
女性から見れば王子様のような存在であった。
セリアとしか接しないため、ほかの同級生とは疎遠になり、影は薄いが、、女子からの人気は熱い。
「あなたのことが好きです! 私と付き合ってください!」
プリクラは、見た目こそ清楚で大人しそうな美少女だが、内面は己の欲望のためならばどんなことでもやるような卑劣極まりない女。
周囲の男子は見た目ばかり見て、誰1人彼女の内面を見ようとはしない。
かといって女子達も、由緒正しい貴族の娘である彼女の絶対的な権力に魅了され、大半はプリクラの舎弟と化している。
これまで何人ものイケメンと関係を持ち、相手に彼女がいようとお構いなしに迫る。
その行為は、恋愛のようなロマンチックなものではなく、好みのイケメンをコレクションのように集めている感覚である。
ゼロンを狙ったのも、もちろん自分のイケメンコレクションに加えるためである。
プリクラは「・・・ダメですか?」と涙目で自分の好意を訴える。
さらに制服をわざと見出し、豊満な胸や足を見せて色仕掛けまで仕掛ける。
男の本能と心に訴えるこの告白で、プリクラは何人もの男を虜にした。
「ごめん。 気持ちは嬉しいんだけど、君とは付き合えない」
ゼロンの予想外の返答に、プリクラが「どうして!?」と尋ねると、ゼロンは空を見上げてこう返す。
「僕には愛している人がいる。 僕に生きる目的を作ってくれた大切な女性だ。 彼女のためなら、僕は命でも魂でも、捧げることができる」
愛する人を想い、幸せな笑みを浮かべるゼロン。
その感情は恋というよりも、信仰に近いものがある。
「・・・」
プリクラは言葉を失ったが、内心とても落ち着いていた。
実は、告白が失敗したのはこれが初めてではない。
恋人がいる、好きな人がいる等の断られてもあった。
だが告白が失敗した後もしつこくアプローチを続けていると、男達はあっさりプリクラと関係を持ってしまった。
ゼロンもアプローチを続けていれば、必ず自分の物になるはずだと、プリクラは確信していた。
告白失敗後も、プリクラは必要にゼロンへのアプローチを続ける。
毎日会いに行くのはもちろんのこと、下校時にゼロンを待ち伏せたり、取り巻きの女子に作らせたお菓子を、自分が作ったと言って差し入れたり、周囲から見たらまるで恋人のようであった。
だがゼロンは同級生として相手にするものの、女性として相手にすることは一切なかった。
そんな状態が1ヶ月近く続き、プリクラは次第にイラ立ちを覚え始めた。、
そんなある日の放課後……。
自分の思いを留めることができなくなったゼロンはセリアに話があると屋上に呼び出した。
2人きりの空間で、ゼロンは自らの思いをそのままセリアにぶつけた。
今まで友達として接してきたゼロンが自分に好意を持っていると言われ、セリアは動揺を隠せないでいた。
だがゼロンを異性として見ることができないセリアは「ごめんなさい」とだけ返した。
未熟な子供である故に恋愛と言うものが理解できないのか、単純に好みの問題なのか、セリア自身もそれはわからない。
セリアの返答にショックを隠せないゼロンは、絶望したかのようにひざから崩れ落ちてしまった。
ゼロンを傷つけてしまったと悔やんだセリアは、懸命に言葉を選んで口にする。
「ぜっゼロン。 勇気を出して告白してくれたのに、ひどいことを言ってごめんなさい。
私、好きと言うことがよくわからないの。 だから、あなたの気持ちに応えられる自信はないわ。
でも、あなたは私にとって、大切な友達よ。 これだけは信じて!」
ゼロンとの友情を壊したくないセリアは、ゼロンの手を取り、温かな両手でそっと包み込んだ。
すると、ゼロンの顔にほんのわずかな笑みがこぼれた。
「・・・謝らないでくれ、セリアは何も悪くないよ。 僕にとっても、セリアは大切な人なんだ どんなことがあっても、君のことはずっと信じているよ」
ゼロンの優しい言葉に、セリアは涙ながらに「ありがとう」と言葉にした。
それは友情が壊れなかった安堵の涙であった。
・・・だがゼロンの中にあるセリアへの思いは全く消えていなかった。
「(セリア・・・僕は待っているよ? 君が僕達の愛に気付くその時を・・・そして、君の中にある僕への愛が目覚める時を・・・。 だって僕らは運命という名の糸で結ばれているのだから)」
ゼロンにとってセリアは女神のような存在。
セリアにとってもゼロンは特別な存在。
だから2人は結ばれる運命なのだと、ゼロンは確信し、それが彼の生きる原動力になっていた。
「(なぜ・・・あんな女に・・・)」
そんな2人の様子をドアの影から見ていたのはプリクラであった。
彼女はゼロンにアプローチしようと後を付けていた際に、この告白現場に出くわしたのだ。
資産家令嬢と一国の姫と言う決定的な差はあるものの、ろくに口も利かない根暗なセリアと明るくみんなの人気者である自分では、女として・・・人としての差がはっきりある。
幼馴染と言うタイムラグはあるものの、それを差し引いても、自分がセリアより劣っているとは到底思えない。
さらに、自分が必死に手に入れようとしているゼロンを振ったという事実が、プリクラの怒りにさらなる火を灯した。
「(セリア ウィルテット。 私の気を害した人間がどうなるか、思い知るがいいわ)」
ゼロンの告白後、セリアへのいじめが始まった。
女子の場合は【セリアが教室にいない間に、弁当やノート等の所持品をゴミ箱に捨てる】、【授業のために着替えた制服を授業中に切り刻んでバラバレにする】といった、犯人が特定できないようないじめを好んで実行していた。
プリクラの指示ではなるが、取り巻き達も誰とも接しようとしないセリアが、姫君である自分の立場を鼻に掛け、下々の者とは会話すらしたくない嫌味な女だと思い、疎ましく感じていたため、自発的にいじめを繰り返していった。
だがセリアはそのことを誰にも言わず、弁当が捨てられないように、料理の授業で使用するキッチンで昼ごはんを作ったり、切り刻まれた服を自分で直したりと、自分だけで対抗していた。
セリアを苦しめていたのはいじめだけではなかった。
学校の男子生徒達がプリクラ達女子に、セリアは”影で男を食い荒らす痴女”だの、”他人の彼氏を寝取るのが大好きなアバズレ”等、根も葉もないうわさ話を流されていた。
それを真に受けた男子達が、セリアに性行為を申し込んだり、セリアの胸やお尻を触ると言ったセクハラ行為を行い始めたのだ。
ひどい時は、図書室で1人になっていたセリアに、突然下半身を露出した男子が「これが好きなんだろ?」と股間見せびらかしてくることもあった。
セクハラを訴えようにも証拠はなく、周囲の生徒の大半はプリクラの言いなりであったため、証人もいない。
セリアはこのセクハラで、男性恐怖症になってしまった。
このことを相談しようにも、父親であるゴウマはこの頃、多忙であるためなかなか会えず、
仮に言ったとしても、証拠がないまま問い詰めても適当に促されるだけだ。
そうなれば、どんな報復が待っていのか、想像しただけで恐ろしくなる。
親友であるゼロンになら相談できると思うが、彼女にはそれができなかった。
この頃、ゼロンは夢であった機械技師の資格と取るために猛勉強していた。
彼には機械技師としての優れた才能があり、いずれは心界の機械文明に革命を起こす一材であると、周囲から期待されていた。
ある日、いつものようにゼロンと図書室で勉強していたセリア。
ノートを走らせるペンを止め、ゼロンがセリアにあることを打ち明けた。
「・・・セリア。君だけに話すよ」
「なっ何?」
「実は一昨日、君のお父さんに呼び出されてね? 僕をアストに任命したいと言ってきたんだ」
「アスト?」
アストとは、謎の組織”影”とに対抗するために作られた秘密部隊。
ゴウマは影との戦力差を埋めるために、アストを装着できる人間を集めてチームを作っているのだと言う。
一昨日、ゴウマがゼロンの精神力を計った際、一般人とは格段に高い力を持っていることが判明した。
並外れた精神力と身体能力を兼ね備えている上、機械技師を夢見るゼロンは天才的な技術力と頭脳も持っている。
戦士としても機械技師としても優秀過ぎる人材である。
ゴウマはゼロンにアストとして影と戦ってくれないか交渉した所、彼はすぐに了承した。
「どっどうして了承なんてしたの?」
「決まっているじゃないか。 大勢の人の命・・・そして、君を守るためだよ。 それ以上の理由なんていらない」
ゼロンは優しくセリアの頬を撫でると、にこやかな笑顔を見せた。
セリアはこの時、ゼロンは友人である自分と多くの人のために戦うのだ思った。
ゼロンのことはとても誇らしげに思ったが、それと同時に、彼に相談しようと言う気持ちはなくなってしまった。
ゼロンはこれから大きな使命を背負うとしている。
それなのに、いじめなんて小さな問題を背負わせるわけにはいかない。
「セリア。 難しい顔をしているけど、どうかしたのかい?」
セリアの表情から何かを察したゼロンがそう尋ねてきた。
無論セリア「なっなんでもないの」と平然を装った。
だがそれが、後の悲劇につながるとは、この時は思いもしなかった。
それからもセリアへのいじめとセクハラは続いた。
仮にも一国の姫であるため、ケガを負わしたり、無理やり性行為に及ぶような真似をする者はいなかった。
だがセリアにとっては精神的ダメージに代わりはない。
「(私が我慢すれば、誰にも迷惑を掛けることはありません。
卒業までの辛抱です・・・)」
彼女はいつしか、つらいことを我慢し続けることが当たり前になってしまった。
それをいいことに、周囲の女子達はいじめだけでなく、セリアを奴隷のようにこき使い始めた。
ある日の放課後、先生の手伝いで学校に残っていたゼロンが、荷物を取りに教室に戻ると、中にはプリクラと数名の女子達がゲラゲラ笑いながら談笑していた。
ゼロンは気にせず教室に入ろうとすると、女子の口から耳を疑う言葉が聞こえ、その足を止めた。
「プリクラ。 次はどうやってウィルテットの奴を絞める?」
品のない金髪の女子がゲラゲラと笑いながら、プリクラにいじめの予定を確認する。
プリクラは「そうね・・・」としばらく考え込み、不敵な笑みを浮かべてこう返した。
「クラスで作っている卒業記念の絵に絵の具をぶっかけるってのはどう?」
セリア達のクラスはもうすぐ卒業を迎えるため、その記念としてクラス全員で絵を描いていた。
製作まで3ヶ月以上費やし、まもなく完成する予定である。
「あいつが絵を台無しにしたって知れば、クラスの連中も絶対キレるでしょ?
そうなったら、あいつは完全に壊れるわね!」
楽し気に話すプリクラに、周囲の女子は「ひでぇ~」と爆笑していた。
そんな中、女子の1人が「あんたよっぽどあいつが嫌いなんだね~」と言葉をこぼすとプリクラは不機嫌層な顔でセリアの席を睨む。
「地味女の分際でゼロンに好かれるから悪いのよ」
プリクラは憂さ晴らしをするかのように、セリアの席を蹴飛ばして机を倒した。
その後、プリクラ達は教室を後にした。
「・・・」
ゆっくりと教室に入った時、ゼロンは初めて気付いたが、セリアの机や椅子はほかと比べて明らかにボロボロになっている。
腐食などの自然なものではなく、明らかに人の手によるものだ。
さらに、窓から差す夕日の光が、机のうっすらと書かれた罵詈雑言の文字を浮かび上がらせる。
「・・・許さん」
ゼロンは今まで感じたことのない怒りを覚えた。
自分がセリアを選んだと言う理由だけで、身勝手ないじめを始めたプリクラ達は当然許せない。
だが、彼の怒りはそれだけではない。
机を見ただけで、セリアがいじめを受けているのは明白だ。
それなのに、プリクラ達のいじめは表沙汰になっていない。
それはつまり、クラスも担任もいじめを見逃しているということだ。
「セリア・・・僕が必ず守ってあげるからね」
その後すぐ、ゼロンは学校の開発室で銃を作成し始めた。
しかし、それは精神力の弾丸を放つ特殊武器、シェアガンであった。
彼は以前、アストの武器であるシェアガンの図面を興味本位で見せてもらったことがある。
図面は持ち出し厳禁なためその時しか見ていないが、ゼロンはそのわずかな時間にみた図面の記憶を御もとにシェアガンの作成を実施していたのだ。
彼の天才的な技術と頭脳がまさかの形で牙をむいたのだ。
そして、悪夢の日……。
昼休みにセリアの様子を見に教室へと向かうゼロン。
「なっ!」
そこで見たのは、セリアのクラスメイト達がセリアを囲んで責め立てる光景であった。
そばには絵の具で台無しになった絵があり、すぐにプリクラ達の仕業だと確信した。
さらには、クラスの男子達が一斉に下半身を露出し、罰としてセリアに性的な奉仕を要求したのだ。
周囲の女子達は止めるどころか、「やれやれ!」と男子達をたきつける。
セリアは精神的に弱り切っており、抵抗する力もないようだ。
「あいつら・・・」
怒りが頂点に達したゼロンは、作成したシェアガンをポケットから取り出し、セリアを犯そうと手を伸ばす男子に向かって撃った。
『きゃぁぁぁ!!』
『うわぁぁぁ!!』
撃たれた男子は即死。
周囲のクラスメイト達はパニックを起こして叫び出した。
ゼロンは構わず、周囲の人間を片っ端から撃ち殺し始めた。
逃げ惑うクラスメイト達だが、高性能なシェアガンから逃れることができずに、撃ち殺されていく。
そして、諸悪の根源であるプリクラの足を撃ち抜き、動けない彼女にシェアガンを向ける。
「やっやめて! お願い・・・」
「セリアを苦しめた罪・・・命を持って償え」
「ごっごめんなさい! もうしないから!・・・許して! 死にたくない!」
ぐちゃぐちゃの顔で涙を流し、必死に懇願するプリクラ。
だがゼロンは無表情でこう返す。
「お前達に生きる資格はない・・・死ね!」
ゼロンは全く聞き耳を持たずに引き金を引き、虫ケラのようにプリクラを撃ち殺した。
「きっ君! 何をしている!?」
騒ぎを聞きつけた担任や教師達が、ゼロンを取り押さえようとするが、歯止めが効かなくなったゼロンは容赦なく撃ち殺す。
そして、周囲に人の気配を感じなくなったゼロンは、セリアの元に歩み寄り、笑顔でこう言う。
「大丈夫だよ、セリア。 僕が守ってあげるから」
「ゼ・・・ロ・・・ン・・・」
目の前の惨状に、脳が追い付かないセリアは、そのまま意識を失った。
その後、ゼロンは教師の通報で駆け付けた騎士団によって逮捕された。
この事件により、プリクラを含めた生徒33名と教師9名が亡くなった。
将来を期待された若者による大量殺人。
ゼロン本人は、「愛する人を守っただけだ」と反省の色を見せない。
あまりに残虐な事件で、遺族はもちろん裁判でもゼロンの死刑が決まった。
セリアから事情を聞いたゴウマは、どうにか刑を下げてほしいと願い出るが、王の言葉でも、それは聞き入れることはできなかった。
事件から数週間後、ゼロンの死刑は執行された。
セリアも学校をやめ、以降自室に引きこもっていた。
しかしその2年後、セリアは突然、ゴウマに頭を下げてこう願い出た。
「お父様。 私にアストとしての素質があるか、検査してください」
突然のことに、困惑するゴウマであったが、どうにか冷静さを保ちつつ理由を尋ねると、セリアは今までにないはっきりとした言葉でこう返す。
「ぜっゼロンの意志を継ぎたいと思っています」
「ゼロンの意志?」
「はい。 私の心が弱かったばかりに、彼は人生も夢を失いました。
今となっては、謝罪の言葉すら届けることはできません。
だから私は、彼が背負うはずだったアストの使命を代わりに背負いたいんです!」
その後も真剣な目で訴えてくるセリアに根負けし、ゴウマはひとまずアストとしての素質があるか検査をすることにした。
検査の結果、素質がなければ諦めざる終えないと思ったからだ。
アストの素質を持つ者はごくわずかで、今いるメンバーも5年もの時間を費やして集めた人材。
しかもそれは、努力を重ねてどうにかなるものではない。
ゴウマを含め、検査に携わった誰もが素質等ないと思っていた。
ところが事態は大きく変わった。
後日行なった検査の結果、セリアにはアストとしての素質があることがわかった。
これにはゴウマも驚いたが、それと同時に不安も膨れ上がった。
剣術の心得が多少あるとはいえ、セリアは一国の姫でありゴウマの娘だ。
危険な戦いをさせるのは耐え難いものがある。
今いるメンバー達も、もとは普通に暮らす住人達であるため、アストの使命を背負わせてしまったことを、ゴウマは心苦しく思っている。
そこへさらに、実の娘であるセリアにまで戦わせるなど、親としてさせるわけにはいかない。
しかし、セリア自身の気持ちもくみ取ってあげたいとも思っている。
ゴウマは検査結果をセリアに伝えた後、戦いがどれだけ危険なことであることと、素質があるからと言って、戦闘を強いることは決してしないことを話した。
しかし、その話を聞いてなお、セリアの決心は揺らがない。
「わっ私はアストとして戦います。 これが私にできるゆ唯一の感謝だと思っているからです!」
その固い決意に、ゴウマは”ダメだ”とは言えず、代わりにこんな質問を投げかけた。
「それは事件を起こしてしまった当事者としての責任か?」
「・・・いいえ。 大切な親友としてです」
セリアの返答を聞いた後、ゴウマ「わかった・・・」とだけ返した。
彼女が罪滅ぼしのためにアストとなるのなら、絶対にアストには迎え入れまいと思っていた。
だが彼女は、自分のことを守ろうとして人生を捨てたゼロンに向けて、感謝の言葉を捧げたいと思っている。
こんな自分と親友でいてくれたこと、いつもそばにいていてくれたこと、やり方は間違っていたが、自分を守ろうとしてくれたこと、それらに対する感謝の言葉が、アストになること。
アストとして彼の使命を代わりに背負うことで、彼に”恩返し”がしたいのだ。
そしてゴウマは、ゼロンが付けるはずだったマインドブレスレットをセリアに渡し、その使命を託したのであった。
さらにセリアは、ひそかに秘めていた小説家の夢を叶えるために、本を読み漁ったり、執筆に勤しむようになった。
夢を叶えたい気持ちはもちろんあるが、死んだゼロンに、自分は頑張って生きていることをはっきりと伝えたいというのも本音だ。
彼女がそのように前向きな考えを持つようになったのは、”ある男性”との出会いであった……。
マインドブレスレット ~ロストビジョン・セリア~ panpan @027
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