青い

永遠こころ

『青い』


 〝朝、目が覚めると世界が一変していた――〟



 一見、何の変哲もない朝だった。しかし、俺が起きて見るとその世界は大きく変容していたのだ。

 俺は朝食を作るために冷蔵庫を開けた。そして、気が付いた。


「牛乳が青い……」


 目が覚める程、青かった。


 最初は何かの薬品が混ざったのだと思った。次に腐敗の過程で青カビの様な物が発生したと疑った。しかし、それはどちらも違っていたのだ。


 出勤途中のコンビニで買った牛乳も青かった。

 帰りしなにスーパーで買った牛乳も青かった。


 当然、次に俺は自分の目を疑った。しかし、他のものは何も変わっているところはない。牛乳だけが青いのだ。

 職場の同僚に聞いてみた。


「なあ、牛乳ってあんなに青かったっけ」

「はあ? お前、何言ってんの? 新鮮な牛乳は昔から青いもんだろ」

「そっか……」


 まあ、問題は無い……。


 今のところ実害は無い。ただ、少し牛乳が飲みづらくなっただけだ。俺はそれについて気にすることを辞める事にした。


 だがしかし、次第に世界は変わり始めた。

 最初にヨーグルトが青くなり始めた。どのお店、どのメーカーのヨーグルトも青くなった。

 次にホワイトシチューがブルーシチューになり始めた。名称も変わっていた。


 その頃になると世界の変容は顕著になり始めた。

 気が付いたのは朝の通勤電車の中だった。


「いつもより、息がしやすい……」


 何故かと思い辺りを見回すと、自分の周囲の人々の背の高さが低い事に気が付いた。

 青と言うのは食欲を減退させる色だと言う。多分その所為だ。牛乳をあまり飲まなくなった人々は背が伸びなくなったのだ。毎日少しずつ周囲の人の背が縮み始めた。


 これも最初は全くもって実害が無かったが、それは、すぐに俺の間違いだと言う事に気が付いた……。


 通勤電車のつり革が頭に当たるようになったのだ。

 いつの間にか低く付けられたつり革が、電車の揺れるたびに俺の頭に当たる。ペシペシ……。ペシペシ……。


 次に扉のサイズ少し小さくなった。通り抜ける時に少し屈んで歩かなければいけなくなった。

 服のサイズも無くなった。どれも、丈の短い服になっていた。

 靴のサイズも無くなった。大きな靴が売ってない。

 椅子や机も低くなった。車や職場が窮屈になった。

 バスケット選手? と人から聞かれるようになった……。


 俺はスウィフトの『ガリヴァー旅行記』を思い出した。

 ちなみにこの本の正式名称は『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇』という長いタイトルの風刺小説なのだそうである。

 俺は小人の国にでも迷い込んだのだろうか……。


 次第に窮屈さを増す世界。

 俺は今日まで何とかやって来た……。しかし……。



 今朝、炊飯器を開くとご飯が緑色に染まっていた――。

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