最終話 光れ

 結局。

 僕の論理的思考は何も教えてくれないまま朝を迎えた。

 ただ、結論は出た。

 教室で神島の顔を見たときに勝手に決まってしまった。

 ……いや違う。僕が決めたのだ。

 リスクとかイケメンとかそういうの全部関係なくて。

 ただどうしてもこの気持ちを伝えたくなってしまったのだ。

 そこには論理なんて、微塵も存在していなかった。



 夕暮れの教室。

 僕の目の前には神島がいる。

 いつものように宿題を教わろうと来たんだろう。

 でも残念ながら、今日から〝いつも〟じゃなくなる。

「話があるんだ」

 そう言って僕は立ち上がる。

 空気を察してか、彼女は目を伏せた。

 告白することを決めた時から今この瞬間まで、どうしたら上手くいくかをずっと考えてきた。

 そのために、どうしてこうなったのかを考えた。

 どうして?

 僕の目を、彼女に奪われたからだ。

 それなら逆に、僕が彼女の目を奪うことができれば。

 そこに勝機があるんじゃないだろうか。

 では、彼女の目を奪うにはどうしたらいいだろう。

 そんなこと簡単だ。彼女は自分で言っていた。


 光れ。


 僕は、僕を光らせるしかない。

 光とは魅力のことだと彼女は言う。

 でも僕はイケメンでもないし、大した取り柄もなく、何かを成し遂げたこともなく、辛いことや苦しいことからは迷わず逃げてきた。

 僕の魅力。

 それは多分、今の僕にはない。


 だから。

 今から乗り越えるよ。

 どんなに怖くても。どんなに恥ずかしくても。

 もう決めたから。


 僕は。

 眩しくない僕は。

 人生で初めて、主人公になる。


「神島のことが好きです。僕と付き合ってください」


 僕の言葉を聞いて。

 彼女は伏せていた目をゆっくりと持ち上げた。

 僕は真っ直ぐに彼女を見つめる。

 さあ、よく見てよ。


 今の僕は、何ルクス?


 ――彼女は少し、目を細めた。



(了)

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眩しくない僕は 池田春哉 @ikedaharukana

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