ベビコン5話 うちあげ! -4(後)-
「で、活用できそうな立ち位置にいるルシアはどうした?」
「少々ごねられまして……」
はぁ、とナタリアがため息を漏らす。
「ミニスカートが恥ずかしいのだとか」
「じゃあスカート穿かなくてもいいぞ☆」
「あれ、どうしたのヤシロ? 今日は一段とバカが悪化しているみたいだけど?」
素のトーンで毒を吐くエステラ。
俺が男性的マジョリティにいることが分かって、反撃しにくいのだろう。
俺が特殊なのではない!
男という生き物自体が夢追い人なのだ!
「それで、ミニスカートの周りに飾りをつけるということで妥協しました」
「領主が妥協とか、あり得なくなぁ~い!?」
「領主だって妥協はするし、主犯格をしょっぴく権限も持っているんだよ」
エステラの手が首元に置かれる。
ナイフを持っていないのに、頸動脈を切り裂かれそうな寒気に襲われる。
ちょっとはしゃいだだけなのに……
「というわけで、ご登場いただきましょう――アイドルプリンセス・ルシア様withアイドル妖精ツインズです!」
ナタリアの呼び込みに応えるように、ギルベルタとミリィを従えたルシアがフロアに姿を表す。
その衣装はまさにアイドルプリンセス。
前から見るとミニスカートだが、腰から背面にかけてひらひらとフリルが幾重にも折り重なり広がっているハイロースカート。
背面はドレスのようにボリューミーなスカートなのに、前面はミニスカ。
キレイな脚線美を余すことなく堪能できる、可愛セクシーな仕上がりだ。
スカートに合わせるように、上半身もフリルがふんだんに使われていて、キラキラと華やかでまさにアイドルのようだ。
もちろん網タイツ。
そしてハイヒール!
やはり、網タイツにはハイヒールがよく似合う!
「なぜ私がこのような格好を……!?」
「昨晩ボクに多大な迷惑をかけたからです」
「うぬぅ、エステラめぇ……っ!」
うっすら頬を染めエステラを睨むルシア。
その鋭い視線がこちらを向き「見るな、カタクチイワシっ!」と牙を剥く。
見るっつーの。
「そんな色っぽい太ももさらして、見るなっつー方が無理だつーの」
「色っぽ!? ……ぅぐぅ、その軽い口を閉じろ、カタクチイワシ!」
先程よりも頬を赤く染め、ルシアが足を隠すようにうずくまる。
ミニスカに全然慣れていないせいかしゃがみ方が甘く、パンツが見えそう――あ~らら、ギルベルタとミリィにガードされちった☆
ルシアを背にかばうように前に進み出てきたギルベルタとミリィも、ルシアと同じくフリル満載のハイロースカートでアイドルチックな衣装だった。
もちろん網タイツ。
でもまぁ、この二人はマグダ寄りかなぁ。
「二人とも、可愛いぞ」
「ぁ……の…………ぇっと、……ぁりがと、ね?」
「嬉しい思う、私は、友達のヤシロにはぁはぁしてもらえて」
してないぞー、ギルベルタ。
よく見て。
そして捏造はするな。
普段大人ぶりたがっているミリィだが、やっぱり網タイツのようなセクシーな衣装はまだ恥ずかしいらしい。
腰回りのフリルを掴んで脚を隠そうとしている。
「大人なミリィなら、もっとセクシーなポーズもとれるはず!」
「昨日のことはもう忘れてぇ~!」
どうやら、ミリィは酔っても記憶が残っているタイプのようだ。
昨日のおのれの言動を踏まえ、現在の状況が羞恥心を倍増させているようだ。
わぁ、なにこれ。一瞬で疲労が吹き飛んでった♪
そんな感じで、網タイツを穿いた一同がフロアに集まると、なんとも華やかで賑やかになった。
誰か出てくる度に騒いでいたウッセとベッコは、ルシアの登場で床に倒れ込んでいた。
貴族女性のミニスカ網タイツ姿は破壊力が半端なかったようだ。
ルシアの脚は一級品だからな。
え、ウーマロ?
ウーマロはず~っと背中向けてるよ。
「なんだかんだ、楽しそうだよな、あいつら」
「そうですね。……少し、恥ずかしそうでもありますけれど」
照れつつも、新しいファッションを身に着けて、お互いに感想を言い合っている女子連中。
やっぱりノーマとルシアが絶賛されている。
イメルダとナタリアがこっそり対抗意識燃やしてるぞ。
……あざといんだよなぁ、この二人は。
マグダ、ミリィ、ギルベルタが集まって、きゃっきゃと網タイツを突っつき合っている。
……いや、マグダとギルベルタがミリィの網タイツを突っつき回している、が正解か。
「…………」
盛り上がる一同を、少し羨ましそうな顔で見つめるジネット。
「お前も穿いてくるか?」
「へっ!?」
みんなで盛り上がっている中、一人だけ蚊帳の外ってのは寂しいもんだろう。
「まだ上にウクリネスがいるし、それに、ロレッタのお披露目もまだだからな」
「あ………………そう、……ですね」
網タイツのセクシーさに、若干の照れがあるようだが、みんなとお揃いになりたい、同じことをしたいという気持ちが勝っているようだ。
ジネットが、決心したような力強い瞳で、うつむけていた顔をゆっくりと持ち上げる。
「あのっ、わたしも――」
その時、今日一番の騒がしさで、ロレッタがフロアへと飛び込んできた。
「ちょっと、誰かウクリネスさんを止めてです! これはどう考えても人前に出ていける衣装じゃないですよ!?」
飛び込んできたロレッタが身にまとっていたのは、光沢のある真っ赤なバニースーツ。
網タイツを、最も魅力的に魅せる衣装のウチの一つ。
そして、俺が是が非でも四十二区へ導入したいと願ってやまなかった衣装の一つだ。
「ばにーがぁーーる!」
「ほにゃぁあ!? お兄ちゃんの食いつきが思いの外良過ぎたです!?」
え?
え!?
なんで!?
なんで知ってるの、ウクリネス!?
俺、お前に話したっけ?
あぁ~、話したかもなぁ、網タイツを作ろうって話を持ちかけた時に。
あぁ、うん、話してるわ、俺。
で、それを見事に完成させちゃったわけ?
お前、天才か、ウクリネス!?
完璧なバニーガールじゃねぇか!
「あたし、何も聞かされずに二階に行ったら、他の誰よりもセクシーな格好させられたですよ!? 心の準備もままならぬうちにっ!」
「ロレッタ、えらい!」
「めっちゃ手放しに褒められたです!?」
いや~、これを着せちゃうウクリネスも、これを着れちゃうロレッタもえらい!
今日から暫くの間、俺はロレッタに優しくしようと思う!
「ロレッタ、アイス食べるか?」
「お兄ちゃんが分かりやすく優しいです!?」
「拙者、ロレッタ氏を見くびっていたようでござる。このお姿は崇拝に値するでござる!」
「怖っ!? ござるさんの勢いと発言内容が物凄く怖いですよ!?」
「普通っ子……いや、ロレッタ、か。何か困ったことがあれば俺に言え。必ず助けになってやる」
「ウッセさんが今まで見たことないくらいに優しいキリッとした顔してこっち見てるです!? 真面目な顔過ぎてちょっと笑いそうです!」
「……ふぅ……ッス」
「ウーマロさんが背中を向けたまま気絶しちゃったです!? 全部バニースーツのせいですか!? ちょっと怖いですよ、この衣装!?」
男たちの熱狂に、ロレッタが女子の輪へと飛び込み避難する。
ノーマとエステラの背に隠れて背を丸める。
ウサ耳がぴこぴことエステラの背後で揺れていた。
「ここまで驚異的な破壊力だとは……」
「この四人は、どっちかって言うと比較的アレだとはいえ……凄まじい威力さね」
「ロレッタさんでこの破壊力なのでしたら、着る者が着れば、大袈裟ではなく街一つを牛耳れるかもしれませんわね……」
エステラ、ノーマ、イメルダがその脅威に恐れおののいている。
バニーガールは、世界を統べる。
うむ、あながち外れではない。
「いや~、いい仕事をしました」
フロアへと、やりきった感満載の笑顔でウクリネスがやって来る。
我々男子一同は惜しみないスタンディングオベーションで出迎えた。
やんや、やんや。
「どうですか? ジネットちゃんも少し試してみませんか?」
先ほど、試してみる方へと心が傾いていたジネット。
期待を込めて視線を向けると――
「む、無理ですっ!」
それはもう、一目で無理だと分かるほどに顔が真っ赤っかだった。
……あぁ、さすがにバニーガールを見た後では、尻込みしてしまうかぁ。
バニー以外の、もっと軽めの衣装で挑戦してみないかと声をかけてみたが、ジネットの首が縦に動くことはなかった。
……残念、いや、無念なり。
まぁ、今日のところはしょうがない。
だが……まだレジーナとかパウラとかネフェリーがいるからなぁ。
バルバラなんか、ちょっとノせれば簡単に着るだろう。あいつ、単純だし。
「みんなと一緒に」の魔法は、まだ使う余地がある。
必ず拝んでみせるぞ、ジネットの網タイツ!
新たな目標が生まれ、俺は未来へ向けて足を踏み出す。
きっと未来の四十二区は、今よりももっと楽しい街になっているだろうと、そんな確信を胸に抱いて。
異世界詐欺師のなんちゃって経営術-分割版- 宮地拓海 @takumi-m
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