ベビコン5話 うちあげ! -4(前)-

 朝、目が覚めると。


「おはようございます!」


 にっこにこ顔のウクリネスが大荷物を抱えて店先に立っていた。


「それでは、失礼いたしますね」


 歌うように言って、ジネットの許可を得てから二階へと上がっていく。

 二階には、昨夜飲んではしゃいで大騒ぎした女子たちがまだ大量に眠っている。


「ジネットも試してみるか、網タイツ?」

「え…………いえ、あの……わたしは、今回は……」


 満面の笑みで問いかけてみれば、硬い苦笑でやんわり拒絶された。

 絶対似合うのになぁ、ジネットなら。

 出会った頃の痩せ過ぎ体型から、今は程よく肉付き理想的な体型になっている。

 甘いものと美味いものが増えて、一時期まん丸くなっていた顔も、今ではうまくコントロールされてスッキリしている。

 まさに、痩せ過ぎず太り過ぎず、とても魅力的なプロポーションなのだ。

 しかも、体重の増減に影響されず不動のIカップ!


 えらい!

 ジネット、すごくえらい!


「じゃ、次の機会にな☆」

「……もぅ」


 何か言いたそうな表情ではあったが、懺悔は言い渡されなかった。

 今回はエステラの意趣返しだからな。責任の大半はエステラにある。

 俺はただ、「こういう方法もある」という提案をしただけだ。


「おはようございますです!」


 いつもより早めに、ロレッタが陽だまり亭へやって来る。


「昨日、あのあと大丈夫だったですか? ベッドがないからって、あたし帰っちゃったですけど」


 過去陽だまり亭にはもっと大人数が宿泊したこともあるわけだが、昨日は酔っ払いが大半だったので、ベッドで大人しく眠るなんてことが出来ないと判断し、帰れる者は帰したのだ。


 ルシアとイメルダを客間のベッドに放り込んで、デリアとミリィは俺のベッドへ。

 ノーマはマグダに抱きついて離れなかったのでそのままマグダのベッドで寝かせて、ギルベルタとエステラとナタリアはジネットのベッドで眠ったそうだ。


 運んでくれたのは、比較的酔っていなかったナタリアと、ノーマにしがみつかれたままのマグダ。

 ノーマをおぶったままでも人を運べるマグダがマジすごいと思いました。


 あと、少しでも睡眠を妨害すると魔神と化すギルベルタは、ジネットが抱っこして運んでいた。

 なぜか、ジネットの時だけ魔人化しないギルベルタ。

 ……これが精霊神の加護か。


 俺?

 当然のようにフロアで寝たよ。

 一人でな!

 さすがのウーマロも疲れてたのか、マグダを見ながら夕飯を食ったあと割とすぐ帰っていったんだよ。

 今日も寮の建設やるんだろうし。


 で、難を逃れたロレッタ。


「ロレッタ、悪いんだが至急二階に行ってきてくれないか。俺入れねぇから」

「お遣いですね! まっかせてです!」

「何をすればいいかは、行けば分かるから」

「では、とりあえず行ってくるです!」


 とたたっと駆けていくロレッタ。


「はい、網タイツ一名様追加っと」

「もぅ、ヤシロさん……」


 ジネットは困り顔ながらも叱りはしない。

 網タイツは、セクシーではあるが新しいファッションでありエロいものではないと理解しているのだ。

 少し、セクシーなだけで。


 ――と、そこへ。


「おはようッス、ヤシロさん。あ、店長さんも」

「店長氏、ご相談頂いていた英雄型トルソーに関してでござるが――あ、ヤシロ氏もいたでござるか。ではこの件は後ほど」


 ウーマロとベッコが揃ってやって来た。

 とりあえず、ウーマロは中に入れて、ベッコは地に沈めておいた。


「……ジネット?」

「いえ、あの、わたしも自作の服を飾れるトルソーがあれば嬉しいなと……ごめんなさい」


 こいつは、なぜそこに関してだけ往生際が悪いのか……


「ヤシロ氏のおっぱいへの執着と近しいものを感じるでござる」

「そ、……そこまで強力ではありません……」


 おいこらジネット。

 随分な言いようじゃねぇか。

 で、ベッコは地底に沈めておく。


「ちょっとめり込んだでござるよ!?」


 めり込んどけ、お前は。


「朝からうるせぇな、お前らは」

「お? スケベのウッセじゃねぇか。どうした、朝からスケベそうな顔をして」

「スケベじゃねぇ!」

「「「『精霊の……』」」」

「やめろ三馬鹿!」


 俺、ウーマロ、ベッコの手を順番にはたき落としてウッセがおのれの虚言を隠蔽する。

 極悪人め。


「俺は今日、街門の外へ行くから、弁当を頼みに来たんだよ。オープンと同時にもらえないかって相談によ」

「大丈夫ですよ。なんなら、今から作ってきましょうか?」

「いいのか? まだ随分早い時間だが……」

「仕込みのついでですから」


 言って、ジネットは厨房へ向かう。


「特別料金」

「払うよ、ウッセぇな」


 ウッセにウッセぇとか言われたわ。ダジャレか? ぷぷぷっ。



 そして十数分。

 ジネットが弁当を作り終えて戻ってきた頃、最初のモデルが降りてきた。


「……おはやぅ」


 最初に降りてきたのはマグダだった。

 ウクリネスに整えられたのか、洗顔も整髪もばっちり。

 なんなら薄っすらとメイクまでしている。


 ただ、ノーマに抱きつかれたまま眠ったせいでまだ若干眠そうだ。

「おはよう」が旧仮名遣いになってたな、さっき。


 ちなみに言っておこう。

 今日は、マグダもミニスカ網タイツである――と。


「むはぁああ! 日が昇る前からうっすらメイクで完全武装のマグダたん! あまりの輝きに太陽の女神が降臨したのかと思うほどだったッス! 今日のマグダたんは、マジ女神ッスー!」

「朝っぱらからなんちゅー格好をしてんだ、マグダ。ガキが脚なんか出しやがってよぉ」

「いやいやウッセ氏。ただ脚を出しているだけでなく、あの網状のタイツがあることで少女が背伸びするような初々しい魅力が溢れているでござる。マグダ氏、ウーマロ氏ではござらぬが、今日のマグダ氏は一層魅力的でござるよ」

「そぉかぁ?」


 あくまで否定的なウッセ。

 ベッコまでもが褒めてるのに、この筋肉ときたら……


「お前は巨乳以外認めない派か?」

「それはテメェだろうが!」


 バカモノ!

 俺は脚線美にも理解があり精通しとるわ!

 だからこそ、苦心の末に網タイツの開発に成功したんだろうが!

 四十二区にある材料と技術だけで再現するのが、どれだけ大変だったか!


「……乳も筋肉も膨らめばいいと思っているウッセはともかく、他の三人の熱い視線は受け取った。堪能することを許可する」


 こら、マグダ。

 俺まで含むんじゃねぇよ、ウーマロ病患者チームに。


 今日のマグダは太ももの中ほどまでが露出する、結構攻めたミニスカートを穿いている。

 網タイツも装着済みなのだが……まぁいかんせん、マグダはまだ子供だ。

 むちっと弾ける色香には程遠い。

 網目も閉じ気味で、少し透けてる黒タイツみたいになってるしな。


「マグダさん、とっても可愛いですよ」


 ジネットには好印象のようだ。

 確かに『可愛い』だな、これは。


 マグダは、俺がエステラに着せた『なんちゃって小学生風の赤いジャンパースカート』っぽいワンピースを着ている。

 なんでも、ウクリネスが俺の作った赤いジャンパースカートにインスパイアされて作ったのだとかなんだとか。

 なんでも吸収するな、あいつは。


 ただ、エステラのはなんちゃって小学生風だったけれど、マグダがそれに似た服を着ているとまんま小学生……あぁ、そうか、来年十五歳で成人だったっけな。

 ごめんごめん、忘れてたんだ。だからそんなほっぺたをぱんぱんに膨らませてこっちを睨むな。

 俺、言葉発してないからね?


「あ、エステラさん」


 続いて降りてきたのは、白いシャツに紺のホットパンツを穿いたエステラ。

 ミニスカートではないが、太ももががっつりとお目見えしている。

 すらっと長い足を覆う網タイツも、スポーティーな格好の影響で爽やかに見えるな。


「……ボクはミニスカート以外でってお願いしたんだけどね」

「俺は昨日ちゃんと伝言したし、何より望みが叶ってるじゃないか」

「ミニスカートよりも脚の露出が上がってるんだよ!」


 ウクリネスを味方に引き込んだつもりだったようだが、残念、ウクリネスはおのれの欲望の味方なのだ。

 お前の脚線美を隠すような衣装を用意するわけがない。


「ま、……まぁ、約束だったしね……見せるって」


 そうそう。

 もともと、エステラが俺に網タイツを見せてくれるっていうことで始まってるんだよな、今日の網タイツフェアは。

 では、お言葉に甘えて堪能させてもらおうか。


「ふむ…………」

「…………」

「…………」

「…………な、何か言ってよ」

「網目を指でぷしってしたい」

「却下!」


 えぇ~……

 網タイツ最大の楽しみ方なのに……


「それで、……ど、どう、かな?」

「控えめに言って最高だ」

「ぅぐ……な、なんか、言い方がいやらしいよ」

「すげぇ綺麗だぞ」

「………………そぅ」


 一瞬で顔中に赤が広がり、開きかけた口をぐっと噛み締めて、たっぷりの間を取ったあと、エステラは呟くように言って、そっぽを向いた。

 ……あ、小さくガッツポーズした。


 でも冗談抜きで、エステラの脚は綺麗だ。

 人によっては細過ぎると思うかもしれないが、エステラの全体像から見ても非常にバランスの取れたスタイルだろう。

 女子が羨ましがる脚だな、こいつのは。


「ぉおおおおっ!?」


 照れが限界値を超えたのか、ジネットにしがみついて体をむにむに揺らし始めたエステラを観察していると、後ろでウッセが吠えた。


 振り返ってみれば、お揃いの格好をしたノーマ、イメルダ、ナタリア、デリアが並んで立っていた。


 少しタイトな純白のワンピース。

 硬めの素材で作られているせいか、腰回りやスカートに生まれるシワが大きい。

 胸のラインをくっきりと浮かび上がらせるようなことはないが、その分ぴっちりとした裾が太ももに食い込んでその柔らかさをこれでもかと視覚に訴えかけてくる。

 ちょっと大きく足を開けばスカートが「ずりん!」と持ち上がってしまいそうな危うさが俺たちの視線を釘付けにする。


 この服、あれだ。

 ナース服だ。

 形状はちょっと異なるが、ナース服とほぼ一緒だ!

 ミニスカナース!


 ナースなのに黒の網タイツ!?


 何その病院!?

 長期入院したい!


「なんでアタシらがこんな格好させられなきゃいけないんさね……」

「昨日の行いのせいだな」


 俺の指摘に、ノーマとイメルダはさっと視線を逸らした。

 自覚は、あるようだ。


「あたいは?」

「デリアは……まぁ、ついでだ」

「ついでかぁ」


 ナタリアはエステラにお供するって進んで網タイツ穿いてそうだし、デリアも別に嫌がってはいないようだ。


 だが、フェロモンを撒き散らすこちらの美女二人は引きつった顔をしている。


「ワタクシはいつも苦労をかけられる方ですのに……一度くらいは免除されて然るべきですわ」

「アタシだって、そんなに迷惑はかけてないさね」

「「「いや、それはない」」」

「なんか、方々から否定されたさね!?」


 お前は、一位二位を争う酷さだぞ、ノーマ。


「しかし……こ、こりゃあ…………ごくり」

「う、うぅむ。マグダ氏、エステラ氏を見ただけでは、ここまでのものとは想像がつかなかったでござる……」

「オ、オイラ、ちょっともう、そっちは向けないッス……」


 男性陣、陥落。


 いやぁ、すごいんだって。

 ノーマやイメルダの網タイツ。

 純白の衣装なのに、もう、なんか、エロい!

 色気の放出量が過去最大級かもしれん。

 ナイアガラの滝が発するマイナスイオンの量を軽く超えている。

 さらに、その後方には照れることなく、惜しげもなく、もったいぶることもなく見事な太ももin網タイツを見せつけているデリアとナタリアがいるのだ。


 もう、この画角、最高of最高。


「あ、ごめん、ノーマ。小銭落としたから拾ってくれる?」


 うっかりと取り落としてしまった1Rb硬貨が、ノーマの足元に転がっていく。


「ったく、しょうがないさね……このスカート、めくれそうでしゃがみにくいってのにさぁ……」


 文句を言いながらも、親切にコインを拾ってくれようとするノーマ。


 ヒザを揃え、右足を半歩後ろに下げて、ヒザを左斜め下に下げるようにして腰を落としていく――タイトスカート特有のしゃがみ方をするノーマ。

 その結果、腰を捻ってくびれを強調し、太ももが前面に「ばばーん!」と見せつけられるなんともセクシーなポーズが誕生する。


 このポーズが、一番網タイツを美しく魅せると思います!


「ほら、もう落とすんじゃないさよ」

「「「ありがとうございます!」」」

「な、なんで、ウッセとベッコまで礼を言ってんさね……」

「バカだからだよ……まったく、四十二区ウチの男たちときたら……」


 エステラが呆れたようにため息を漏らす。

 呆れたくば呆れるがいい!

 男の魂百まで!

 メンズは、いつまでも思春期の心をなくさないものなのだ!


「男性陣の反応を見る限り、この網タイツというものの破壊力は凄まじいようですね。うまく活用できれば、新たな交渉材料になり得ます」

「ボクに何をさせようっていう気なのさ、ナタリア……」

「ご心配なく。ただ細いだけで色気の足りないエステラ様に網タイツを履かせてどうこうしようなどとは考えておりません」

「色気がなくて悪かったね!?」

「エステラ様……、網タイツの真髄は、この網目に食い込む太ももの肉です!」

「今日初めて穿いた人間が真髄を語らないでくれるかい!?」


 しかしながら、ナタリアは真理に近付いているぞ!

 あの網目のお肉、ぷしぷししたい!


「これが活用できる女性や、活用させたい女性に心当たりのある男性に、とても効果を発揮するでしょう」

「あぁ……なるほどね」


 納得しつつ、どこか嫌そうな顔のエステラ。


「……男がバカなのは、四十二区ウチだけじゃなかったようだね」


 あなたの心に、ダイレクト☆コネクト!


 ノーマのしゃがみ太ももは、凄まじい破壊力だったからな。

 あの破壊力に耐えられるの、ウーマロとハム摩呂くらいなもんだろう。





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