終章 伝説の始まり
伝説の始まり
いつものように朝が来た。だが、人々の感じ方は違っていた。今日を迎えることができるかどうかわからなかった。朝を迎える事、明日を迎える事がわからなかった。だが、5人の魔族が世界を救ったことによって、明日を迎える事ができた。
5人の魔族が王神龍を封印したことで、朝を迎える事ができた。人間は魔族に感謝し、これからも共に生きようと誓った。
犬神に洗脳された魔族達は元に戻った。我に帰った魔族は、今まで何をしていたのか、ここはどこなのか、全くわからなかった。
「僕はここで何をしていたんだろう」
牢屋の中で、魔族は呆然としていた。まだ何をしていたのかわからない。
「みんな、なんでこんな格好で働いてんの?」
周りの人々を見て、魔族は驚いた。どうしてこんな服を着ているんだろう。どうしてこんな所で働いているんだろう。
その時、牢屋に閉じ込められている人々が叫んだ。
「僕たち、今まで牢屋に閉じ込められていたんですよ」
「助けてください。また普通の生活に戻してください」
その声を聞いて、魔族達は牢屋を開けた。牢屋から出た人々は喜び、牢屋から出た。そして、出口に向かった。
「やったーっ。これで元の生活に戻れるんだ」
人々は笑顔を見せた。やっと帰れる。早く外に出たい。朝日が見たい。
「もうこんなとこ、まっぴらだよ」
洗脳されていた魔族は牢屋から神殿の外に出る道を案内した。今まで悪い事をしていて悪かった。どうか、これで許してくれ。
「俺たち、解放されたんだ!」
「バンザーイ!」
人々は歓喜を上げた。今日から僕らは元に世界に戻れる。またみんなに会える。
「僕たち、故郷に帰れるんだ」
「世界が救われたんだ。1人のドラゴン族の女性が救ったんだ」
昨日の夕方、その男は1人のドラゴンに会った。サラだ。世界を救おうとしているサラだ。そのサラが、世界を救ったのだ。早くサラに会いたい。ありがとうと言いた。
「『百獣の王はライオン、魔獣の王はドラゴン』、これは本当だったんだ」
女性はドラゴン族のことを知っていた。魔獣の中で特に強く、強力な魔法を使いこなす。
「奇跡だ。奇跡が起こったんだ」
「早くそのドラゴン族の女に会いたいな」
しばらく歩いていると、光が見えてきた。久々の光だ。捕らわれていた人々はみんな喜んだ。
「おーい、街が見えてきたぞ!」
「ここは、サイレスシティか?」
「そうみたいだな」
3人は外に出た。だがそこにあったのは、廃墟と化したサイレスシティだ。どうしてこうなったんだろう。3人は愕然となった。
「廃墟になってる」
男はその場に崩れた。どうしてこうなってしまったのか?
「でも、平和が戻っただけでも喜ぼうよ」
横にいた女は男を励ました。だが、男はその場に泣き崩れた。
その時、空を飛ぶ赤いドラゴンが見えた。何事だろう。男女は驚いた。
「みんな、どこに行くの?」
「リプコットシティ。世界を救った5人の英雄に会いに行くんだよ!」
「行こう行こう! 英雄に会いたい!」
その声を聞いて、白いドラゴンは地上に降り立った。この人も乗せたいと思っていた。この人にも世界を救った英雄を見せたい。そして、荒廃した世界のかすかな希望を見せたい。
「さぁ行くよ! つかまって!」
「うん!」
2人を乗せて、白いドラゴンは再び飛び立った。目指すはリプコットシティ。海の向こうのリプコットシティに行けば英雄に会える!
サラはアカザ島から昇る太陽を見ていた。サラはしばらく見とれていた。今日、こうして朝を迎えられるのは私たち、そしてこの世界に生きる人々のおかげだ。そう思うと、サラは感動した。
「美しい朝だね」
4人もその太陽を見て感動した。今日の太陽は一段と美しい。いつもと同じなのに。どうしてだろう。やはり、世界に平和が戻ったことを告げる夜明けだからか?
「今日、こうして朝を迎える事ができたのは、みんなのおかげだ」
サラは王神龍との最後の戦いを振り返っていた。苦しい時に、みんなの声が届き、それが力となり、奇跡が起こった。今日は平和が戻った記念すべき日だ。リプコットシティで喜びを共に分かち合おう。
「さぁ、リプコットシティに行きましょ! きっとみんなが待っているから!」
「うん!」
4人はサラの背中に乗った。サラは空高く飛び上がり、リプコットシティを目指した。リプコットシティにはどれぐらいの人々がいるんだろう。
サラは空からリプコット大陸を見ていた。所々に点在する市町村はみんな廃墟になっている。だが、まだ人々は生きている。昨日を乗り越えて生きている。市町村が消えただけなのだ。人々は2本の足で立ち、しっかりと生きている。まだ希望が残されているだろう。
リプコットシティまであと少しの所を、行列が進んでいた。リプコットシティに行って、世界を救った英雄に会いたい。ただその一心で進んでいた。
行列の中の一人が顔を出した。列車の上空を巨大なドラゴンが飛んでいた。そのドラゴンは、赤いドラゴンだ。サラだ。
「ドラゴンだ!」
巨大な翼を広げ、ドラゴンは雄大に空を飛んでいた。その姿はまさに「魔獣の王」だった。その声に反応して、乗客の多くが顔を出し、上空を見た。乗客たちはドラゴンの雄大な姿に感動していた。
「本当だ!」
行列は立ち止まり、みんな空を見上げた。すると、赤いドラゴンが飛んでいた。そのドラゴンが世界を救ったんだ。みんな声を上げた。
「やっぱりあの伝説は本当だったんだ」
「ドラゴンが世界を救ったんだ」
「やっぱりドラゴン族は『魔獣の王』だな」
「なんて雄大な姿… ドラゴンって、かっこいいわ」
「おーい!」
行列の人々は手を振った。魔獣の王と言われるドラゴンの勇姿に、彼らは見とれていた。
「みんなが手を振っている!」
「僕らをたたえているんだ!」
サラはそれに気づいた。背中に乗っていたマルコス、サム、レミー、バズもそれに気付き、手を振った。彼らはとてもうれしかった。多くの人々が手を振っているからだ。改めて、自分たちがしたことがすごいことだと実感した。
リプコット大陸を渡って、サラは下宿先のリプコットシティに帰ってきた。サラは、幸せそうな人々の顔を見るたびに、人間と魔族が楽しそうに遊んでいる姿を見るたびに、幸せな気持ちになった。もし、世界の危機を感じ取らなかったら、人々は今頃、この世界にいなかっただろう。人間と魔族が一緒にいることはなかっただろう。
その時、サラの友達がやってきた。サラは笑顔で手を振った。
「サラ、何をしていたのかと心配していたよ。まさか、サラが世界を救ったなんて、信じられない」
生き残っていた大学の同級生はサラを心配していた。突然リプコットシティからいなくなった。どこに行ったんだろう。空襲になった時には死んだんじゃないかと思った。そして、サラが世界を救ったと聞いて、サラに会うためにここにやって来た。
「世界中の人々がここにやって来たんだよ! 世界を救った英雄に会うためにやって来たんだよ!」
「本当?」
サラは信じられなかった。こんなにも多くの人々が集まっているなんて。本当に感謝したいのは苦しい時に力を送ってくれた世界中の人々なのに。
「本当だよ。世界中の人間が感謝しているんだよ」
「さあ、こっちにきてよ。みんなが祝福しているぞ」
大学の同級生は興奮していた。世界に平和が戻った。こんなに嬉しいことはない。
「ほんと?」
「うん」
サラは市役所のテラスに立った。見下ろすと、そこには数えきれないほどの人々がいた。人々はサラを待っていた。世界を救ったサラを待っていた。サラは驚いた。これほど多くの人が来ているなんて。たった1つの使命を果たしただけなのに。それで多くの人の命が救われた。自分は今、歴史を変える大きなことをした。英雄となった。
サラが姿を現した瞬間、どよめきが聞こえた。
「サラ! サラ!」
耳鳴りのような歓声が聞こえた。サラは笑顔で手を振った。サラは世界中の人々が自分に感謝していることがとても嬉しかった。
「ありがとう。これで世界が救われた」
その時、大きな花火が起こった。世界が救われたことを祝福する花火だった。
サラはその様子をじっと見ていた。本当に感謝したいのは、苦しい時に力を送ってくれた人々だ。彼らがいなければ、王神龍を封印することができなかった。
「おぉぉぉー!」
そして、万歳三唱が起こった。サラは笑顔で手を振っていた。
「みなさん、今日は世界を救った英雄に会いに来てくださって、ありがとうございます。王神龍は封印され、これで世界は救われました。今、この世界は復興への第一歩を踏み出したのです。でも、本当に感謝したいのは、私たちです。苦しい時に力を送ってくれた皆さんが本当の英雄です。王神龍は人々の憎しみが生み出した邪神です。そのような邪神を生まないためには、1人1人が思いやりを持たなければなりません。私たちはそれを語り継ぎ、そしてやがて来る王神龍の復活に備えなければなりません。そして、いつの日か、魔獣の英雄が再び現れるようにしなければなりません」
すると、人々は再び歓声を上げた。この世界は今、復興への第一歩を踏み出した。
その時、後ろから誰かがやって来た。パウロだ。パウロは決意を胸に秘めていた。この日のために、何を言おうか考えていた。
「サラ、伝えたいことがある」
誰がの声に気付き、サラは振り向いた。そこにはパウロがいる。パウロは真剣な表情だ。
「何?」
サラは首をかしげた。一体何だろう。
「君の勇敢な姿が好きだ。結婚しよう!」
突然のことだ。結婚を迫られた。
「こちらこそ! あなたと過ごしていた時から好きだった!」
だが、サラは迷わずに笑顔で答えた。力の暴走で記憶を失ったところを助けてくれた。それから共に過ごした。そして、苦しい時には応援してくれた。これほどいい男はいない。この人となら、一緒に暮らしたい。
「ありがとう!」
サラとパウロは抱き合った。すると、それを見ていた人々はみんな拍手をし、結婚を喜んでいた。これほど多くの人に見守られてプロポーズできるなんて、幸せだ。
サラとパウロは下の人々に手を振った。人々は喜び、世界を救った英雄に感謝した。その雄姿を、後世に語り継いでいこう。
マルコスはこの旅で『銀狼聖拳』を編み出した。マルコスはそれを後世に伝えるため、サイレスシティに道場を開き、多くの弟子を生み出した。世界を救って63年後、多くの弟子に看取られながら、マルコスは天に帰っていった。人間を救ったマルコスは、その功績が認められ、神のオーブを与えられ、神のフォースを得て、銀狼神マルコスとなった。それ以来、すべてのオオカミや狼人はマルコスを神と崇めるようになったという。
改心したサムは復興したペオンビレッジで農業をしながら、魔法教室を開き、子供たちに魔法を教え、休日になると、世界を救った5人の魔族の話、そして、自分が世界を救ったことを子供たちに話していた。子供たちはその話を興味津々に聞いていた。この村に伝わる祭りに積極的に参加し、先導していた。サムはそれから80年ぐらい生き、晩年は村の長老となり、息を引き取り、天に帰っていった。サムは魔獣の英雄の最後の生き残りだったという。
人間を救ったサムは、その功績が認められ、神のオーブを与えられ、神のフォースを得て、ファントムロード=サムとして世界を見守ることとなった。それ以来ゴースト族は、サムのことを、『ゴースト族の英雄』とたたえ、神として崇めている。
バズは村長になり、サイカビレッジを発展させた。サイカビレッジは急速に発展し、サイカシティとなった。
晩年、バズは200年の眠りから覚める王神龍に対抗できる聖魔導を育成するために、『聖クライド魔法学校』を設立、初代校長となり、学校を発展させた。いつしか、その魔法学校は、世界一の魔法学校と呼ばれるようになった。
そしてバズは、世界を救って70年後、多くの孤児にみとられて、天に帰っていった。それ以来、バズの命日は『聖魔導記念日』とされ、サイカシティでは『聖魔導祭り』が行われる。その後、バズは蛇神バズとして、世界を見守っているという。それ以来、サイカシティは『北の聖都』と呼ばれているという。
レミーは母との思い出を胸に、母のような教員になろうとサラの後を追って教員になった。最初に着任した小学校でサラと再会した。レミーはサラ同様教えるのがうまく、英雄の話を語り継いでいた。世界を救って71年後、レミーは天に帰っていった。そして、母と再会した。
世界を救って1年後、サラは、教員採用試験に合格した。教員になったサラは、子供たちを教える傍ら、どうして教師になったかを話していた。そして、20歳の頃、邪神龍王神龍を封印したことを話した。子供たちは驚いていた。子供たちは絶滅の危機から救ったサラに感謝し、今生きていられるのはサラのおかげだと感じていた。そんなサラは、同僚に囲まれ、幸せな日々を送ったという。
サラは65歳で定年を迎え、教員から退いた。その後はリプコットシティの教育委員会の理事長を務める傍ら、魔獣の英雄の話をしていた。その話を語り継ぎ、再び起きる人間の滅亡の危機に立ち向かうドラゴンを育てるために。
この世界が救われてから75年、サラは自らの生まれ故郷であるハズタウンで息を引き取り、天に帰っていった。その日は偶然にも、サラが世界を救った日だった。サラはその1年ぐらい前から、故郷に帰りたい、生まれ故郷で最期を迎えたい、と口にしていた。それは、まるで自分の死を予期しているようだった。それを聞き、親族はサラをハズタウンの実家に住ませたという。故郷で息を引き取ることができたサラは、とても幸せそうな表情だったという。
そんなサラの最後の言葉は、
「いつの日か、魔獣の英雄が再び現れますように」
だった。サラは、再び魔獣の英雄が現れ、世界を救うことを願っていた。いずれ復活する王神龍に対抗するために。人間を滅亡させないために。この世界がいつまでも平和であるために。
サラが亡くなった時、世界中の人々は悲しみ、涙を流し、世界を救った英雄に祈りを捧げた。葬儀には、世界中の全ての人々が集まり、黙とうをした。その後、サラの棺を乗せた車はリプコットシティの大通りを走った。人々を救ったサラは、その功績が認められ、神のオーブを与えられ、神のフォースを得て、女神竜サラとしてこの世界を見守ることとなった。
それ以来ドラゴン族は、サラを最高神、または女神竜サラとして崇めている。また、人間は、救世主として崇めている。それ以来人々は、その日を女神竜記念日とし、女神竜に祈りを捧げることにした。
それ以来、アカザ島は古代遺跡の島として知られるようになった。
その島はごく普通の島だった。
ある日、邪教集団によって城が築かれた。
その城は邪神龍王神龍の居城だった。
城が完成して間もなく、その城は天へと昇っていった。
その城は王神龍を信じ、愛する者にしか見えなかった。
しかし、王神龍は封印され、この島は再び地上に降り立った。
その城はそれ以来、禁断の島と呼ばれている。
その島に行くと、悪霊となった王神龍にとりつかれる。
とりつかれた者は、王神龍の意思を受け継ぐ。
とりつかれた者は愚かな人間の言霊を食らい、新たなエデンを築く。
とりつかれた者は世界の最高神となり、人間を滅亡に導く。
インガーシティの人々は、アカザ島に行ってはならないことを語り継いでいた。そのため、街の人々だけでなく、観光客も、そのことを信じ、誰も近づこうとしなかった。近づけば、世界の終わりだと思っていた。
王神龍を封印した真っ黒なオーブ、通称邪神龍のオーブは、アカザ島の古代遺跡に今でもあるという。そのオーブは黒く、それを手にしたものは王神龍の邪悪なフォースを手にすることができるらしい。しかしそのオーブを持ったものは、己を失い、王神龍にとりつかれ、世界を滅ぼそうと思うようになるらしい。そのオーブは、いつか来る復活の時を、そのオーブを手にする者を待っているという。そのオーブの封印の効力には限りがあり、いつかはなくなる。その時こそ、邪神龍王神龍復活の時といわれる。復活の時、アカザ島は再び浮島となり、王神龍の居城、アカザ城となる。
王神龍が蘇る時、ドラゴン族には、王神龍に立ち向かう『魔獣の英雄』の先導者となるべく者が現れるという言い伝えがあるという。そのドラゴンは、『奇跡のドラゴン』と言われる。この世界の平和を救うために、仲間と共に戦い、王神龍を封印するという。
果たしてこれは、いつまで受け継がれていくのだろうか。そして、新たな世界の危機の時、4大精霊のオーブは、誰を魔獣の英雄として選ぶのだろうか。それは、4大精霊のオーブだけが知っている。それはいつだろう。誰もわからない。その時は、そう遠くないはずだ。
この言い伝えが、いつまでも受け継がれますように。いつまでも、世界が平和でありますように。そして、いつの日か、魔獣の英雄が再び現れますように。
Magical Wars ~Legend of Red Dragon~ 口羽龍 @ryo_kuchiba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます