「あなたが好きです」さようなら
佑々木ぴょん子
「あなたが好きです」
「大和」
「やーまと」
「篠崎」
「しーくん」
ホームルームが終わり、チャイムと同時に俺の机の周りに男女が集まってくる。一人一人が
「おい、テストどうだった」
「マジヤバイ、俺死ぬかも」
「私も」
「てか、4番の(2)、あれまじないでしょ」
正直くだらない、うざい、なんだこれはエサに群がるハイエナか。高校生活という群れの中で少量の
「大和は絶対100点とるぞ」
「いやー、それは無理かな」
「嘘でしょ、だってこの間の中間テスト、オール満点で学年一位じゃない」
庚洋子、水橋連、山本ゆう、神崎誠『彼らは俺の親友だ』これが表。だが、その表は『演技』という見せ物だ。『演技』とは見物人の前で舞、芝居、曲芸や体操などの技を行って見せること、本心を隠しみせかけの態度をとること。俺の行動は後者と思われるだろうが本当は前者だ。別に難しい話をしているわけではない。ただ、彼ら《見物人》の前で『演技』という技を見せているんだ、簡単な話だろ。
庚、水橋、神崎がゲームかなにかの話をしている中、ずーと黙ってた山本が俺の目の前でもじもじとしながら口を開く。
「しーくん、かえろ」
「いいぞ」
その様子を見ていた水橋と神崎がはやし立てる。
「よっ、学年トップの美男美女」
「放課後のイチャイチャライフ」
「うらやましいですなー」
「ですなー」
山本が恥らうように顔を赤くし、庚が誰にも聞こえない音で「ちっ」と舌打ちをする。おいおい、その争いに俺を巻き込むなよ。
「じゃあ、また明日」
「じゃあなー」
「バイバイ、篠崎」
◇ ◇ ◇
「ちょっと、山本さん来てくれない」
学校の登校直後、庚さんからの第一声がそれだった。
「え、でも」
庚さんに手を強引につかまれ教室の外に引きずり出される。彼女は廊下を突き進み階段を下りる。他の生徒たちが私たちを怪訝な顔で見つめる。
「ねー、庚さんみんな見てるよ」
「黙って」
人気のない体育館の倉庫に着いた時、背筋がぞわっとした。怖い。庚さんが私に振り向く。
「ねぇ、ゆうちゃん」
声色がいきなり優しくなる。
「私が何であなたをここに呼んだか想像つくわよね。」
庚さんが一歩ずつ近ずく。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。あまりの恐ろしさにしゃがみこみそれでも逃げようと四つん這いになりながら倉庫の出口に向かう。だが、そんなことは庚さんにまんまと読まれていて引きずり戻される。
「に・げ・る・な」
これはもう庚さんじゃない。助けて、だれか。
「篠崎くん…」
「ゆうちゃん、篠崎くん呼んでも無駄よ」
涙がこぼれる。顔がすぐにぐちゃぐちゃになった。
「庚さん…私何かした」
叫びだしたい、助けてもらいたい、でも庚さんが怒っている理由がわかるまでそれはできない。
◇ ◇ ◇
私は山本ゆうが嫌いだった。毎日、毎日篠崎の前ではかわい子ぶって、私の前ではいい子ぶって、先生に怒られたらすぐ泣いて、でも、でも、それでも私はあなたの友達になりたかったのかもしれない。私は篠崎が好きだ。好きの意味は違うが山本さんもすきなのかも。でも、山本さんが篠崎と一緒にいる所を見るとむしゃくしゃして、つらい。だから、この思いを山本さんにも言ったらすっきりすると思ったのに、でも、糸が切れるみたいにあっさり私の理性が思いが… きえた。
(ごめんね、ごめんね山本さん、泣かしてごめんね)
しゃがむ山本さんの前に仁王立ちになり叫ぶ。
「あんたみたいな偽善者が幸せそうな顔を見るのが大っ嫌いなのよ」
そんなことは言いたくないのに…。
「なにが『しーくん、かえろ、だ』猫かぶりが」
山本さんが怯えてる。山本さん逃げて、私から逃げて、ハヤク。
「篠崎の前ではかわい子ぶって、わたしの前ではいい子ぶって、先生に怒られたらすぐ泣いて、うざいのよ、キモイのよ、死ね」
私は彼女の頬をたたく。
言ってしまった。手を出してしまった。私が想像していた方向からあまりにも離れてしまった。涙が頬を伝う。私の目の前で山本さんは微動だにしなくなる。
(ごめんね)
「……」
「ハハハハハ」
「えっ」
笑って…る。まさか私の手が打ちどころが悪くて、どうしよう。
「負け犬の遠吠えね、マジ笑える」
ぐらりと頬を抑えながら山本さんが立った。
「えっ」
「『えっ』ばっかね。私はいい子ぶってるわよ。かわい子ぶってるわよ。それが何か。ん、何黙ってるの?」
私は口をパクパクさせる。
「あー、その表情見るなり、私結構、うまく演技できたのね。」
一息つくと彼女は私の唇に指をあて、いつもの山本さんの表情になる。
「キョウノコトハ、二人だけの、ヒミツね」
私は背中に鳥肌が立つことを覚えた。
いきなりドアが開く。
「山本、庚ここにいたんだ」
『ハアハア』と息をきらしながら神崎と水橋がすわりこむ。
「何でここが」
「それは、他の生徒から聞いて。いや、そんなことより昨日、篠崎が家に帰っていないらしいんだ。」
「山本さん、昨日篠崎と一緒に帰っただろ。何か、知らないか?」
「いや、私は途中まで一緒に帰っただけだし、何も知らないわ?」
「え、篠崎君が帰ってない。」
私と山本さんは驚きと恐怖が入り混じった顔でつぶやく。
「嘘でしょ」
◇ ◇ ◇
俺は神崎誠、探偵だ。と、一度言ってみたい人間だ。我ながら自分が悲しいヤツだと思う。生まれつきの頭脳、体力、運動神経は中の下。容姿は底辺。
だから俺は努力をしても、いくら推理小説を読んでも俺は探偵にはなりえない人間だ。そう、思っていた。だが、ある日底辺な俺に希望の光が照らしたんだ。
「神崎、ここ間違っているぞ」
「えーマジ」
それは篠崎歩コイツのことだ。彼の頭脳、体力、運動神経、性格、容姿から察するに彼は生まれつき天才として生れてきた人間だ。だから俺はコイツという光を食い荒らし底辺に突き落とせば俺という存在を上位に連れていくことができると思う。
と考えていたのが2か月前。
「神崎、おい神崎」
「どうした、蓮」
「篠崎が昨日家に帰ってないって」
嘘だろ、あいつ行方不明ってことか。
「マジ、庚と山本に伝えないと」
「だな、そういやさっき他の生徒が二人が体育倉庫に行くのが見えたって」
「わかった、いくぞ蓮」
「うん」
◇ ◇ ◇
放課後、やっと教師たちが篠崎が行方不明であることを生徒全員に告げた。帰り道に怪しい人には近づかないでと担任は小学生につたえるように言う。
篠崎…
「おい、庚今日は一緒に帰ろう」
「蓮、お前は山本を頼む」
「わかった」
放課後、帰り道なぜかみように薄暗い夕方、神崎とともに歩く。
「ねぇ、篠崎。大丈夫だと思う?」
「大丈夫だろアイツのことだから」
その時だ。なぜだろう。野性の勘か?後ろに何かの気配を感じる。
「後ろ、誰かいない」
「おい、こんな時にやめろよ。怖いだろ」
「気のせいよ…ね」
「あったりめーだろ、大丈夫」
やっぱりだ。後ろに足音が聞こえる。
「やっぱり後ろ、誰かいるんじゃない」
「新聞配達の人だろ、きっと…」
神崎もガタガタと震えている。
「後ろ向いてみる?一度だけ」
「もしものことがあったらすぐ逃げるぞ」
私と神崎は目をつぶって後ろを向き、そして目を開く。
「やっぱり誰も…あっ」
「えっ」
◇ ◇ ◇
「山本…。神崎の母ちゃんと庚の母ちゃんから聞いたか?」
「うん」
昨日、神崎と庚が行方不明になった。という情報は放課後になっても生徒全員には知らされなかった。学校で更に二人も行方不明になったと伝えれば学校の評判が落ちるだろうし、また、篠崎のことで既にパニックになっているクラスでは、生徒たちが更なるパニックで何が起こるのかわからないからだろう。
俺は守れなかった、篠崎、神崎、庚のことも大切な『仲間』なのに。
「水橋くん、今日も一緒に帰ってくれる?」
「いいよ」
俺は山本だけでも守ってみせる。
今日はいつもに比べて空が暗い、そして俺の心も暗い。隣で歩く山本がガタガタと震える。彼女だけでも守らなきゃ、絶対に。
「ねぇ、後ろ誰かいないか、見てくれない」
え…。
「いいけど、ちょっと怖いよ」
守るって思ったばかりなのにー。
「じゃあ、一緒に見よう」
「ありがとう、山本」
俺は目をつぶり後ろを向くそして目を開く。
「えっ…」
「おい…」
「嘘」
山本と水橋がこの後姿を現すことはなかった。
◇ ◇ ◇
「こんにちは、こんにちは」
「勘のいい人はわかるよね、俺が誰か」
「初めに俺は
「見物人、それは君たちも例外じゃない」
「あー笑える」
「俺は初め、彼らのことがうざい、くだらないと言った。それは嘘ではない。」
「それ以前に俺は彼らが大好きだ」
「俺を利用している、神崎。自分では理性が狂うことが止められず相手に狂犬のように噛みつく、庚。本心を隠し俺の前でみせかけの態度をとる、山本。優しいけど度胸のない、水橋」
「みんな、大好きだ」
「今回のいざこざや事件は彼らを俺の一生の宝ものにするための『演技』」
「結構喋ったけどこれも『演技』かもね」
「あなたが好きです」さようなら
◇ ◇ ◇
その後、五人が見つかることはなかった。
「あなたが好きです」さようなら 佑々木ぴょん子 @mutuki47
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