第5話 ハッピーハロウィン!

 その時、何とも不思議な気配を感じた彼は顔を上げます。どこかで感じたその気配はほんの一瞬でしたが、その瞬間に何かが変わった気がしたのでした。

 そこで改めて自室をよく見ると、部屋にはハロウィンの飾り付けがなされています。さっきまで普通の部屋だったはずだと、クロは目をこすって何度も室内を確認しました。


「これは……どう言う?」


 ベッドから降りて部屋の飾りつけをじっくり観察していると、玄関のドアを叩く音が聞こえてきます。彼はすぐに来客の確認に向かいました。


「トリック・オア・トリート!」


 玄関のドアを開けた途端、いきなりハロウィンの定番挨拶をしてきたのは近所のペンギンの女の子。マントを羽織った可愛らしい魔女のコスプレをしています。

 昨日まで村にはハロウィンのハの字の気配もなかったので、このいきなりの変化にクロは驚きを隠せません。


「ええっ?!」

「何? ノリ悪いなぁ……。お菓子ないの?」

「ああっ。も、持ってくるよっ!」


 彼は戸惑いながらも、この可愛い魔女のお客さん用にお菓子を取りに行きました。買い置きのお菓子を小袋に入れて彼女に渡します。女の子はニッコリ笑うとお菓子を受け取り、またすぐにどこかに行ってしまいました。自室の飾り付けとさっきの子の訪問で何かが変わったと感じたクロは、思い切って外に出てみます。

 すると、村はハロウィンの飾り付けで溢れ、村人達はみんな思い思いのコスプレをしているではありませんか。


「ハロウィンだ……みんながハロウィンを楽しんでる……」


 クロは自分の望みが叶ったと胸が熱くなります。村の様子を確認した彼はすぐに自宅に戻り、こんな日が来た時のためにと用意していた衣装に着替えました。

 手製のドラキュラの衣装に着替えていたクロは、その途中でかぼちゃのキーホルダーを見つけます。


「あ、これ……。そう言う事か」


 おぼろげな記憶が一気に鮮明になって渋谷での出来事をハッキリ思い出した彼は、キーホルダーをギュッと握りました。そうして、しっかり着替え終わった後は家を出て、友達と一緒にハロウィンを存分に楽しみます。


「ハッピーハロウィーン!」


 そんなペンギンの村を優しく見守る影がありました。その影は楽しそうにハロウィンを満喫するペンギン達を見て、ニッコリと優しい笑みを浮かべます。


「マスター、良かったですね……」


 そう、それはルルでした。彼女が村に魔法をかけたのです。その魔法の成功を確認して、星渡りの魔女はすうっと消えてくのでした。


 クロの望んだハロウィンを楽しみたいと言う願いも、村にハロウィンを広めたいと言う願いも叶いました。彼は心の中でルルに感謝します。


 夜になり、ハロウィンの本番が始まりました。クロは村人達が盛り上がる中、キラキラと煌く星空を見上げます。すると、あの時描いたオリジナル星座がまた一瞬光ったように感じられました。

 こうして、ペンギンの村の初めてのハロウィンはみんなで盛り上がるとても素敵な一夜となったのです。


 この年以降、村は毎年ハロウィンだけは楽しむようになったのでした。


(おしまい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る