お祭り好きのペンギンと星渡りの魔女

にゃべ♪

第1話 お祭好きのペンギン

 日本から遠く離れた南極のとあるエリアでは、ペンギン達が村を作って生活していました。村人達はみんな真面目に働いて暮らしていましたが、その中の1人のペンギンは働くより遊びが好きなお調子者だったのです。


 そのお調子者のペンギンの名前はクロ。彼は流行に敏感な若者で、特に人間の文化に興味を持っていました。クロは事あるごとに人間のするお祭りをペンギン世界でも流行らせようとするのですが、彼の意見はスルーされるばかり。

 そんな環境にあっても、クロは自分の信念を曲げないのでした。


 時に季節は秋。月で言えば10月に入った頃です。クロは仲間達にまたしても人間のお祭りを広げようと奔走しておりました。


「みんな~。10月31日にはハロウィンって楽しいお祭りがあるんだよ~。僕らもやろうよ~」


 彼は自分の知ってるハロウィンの知識を熱心に語り続けます。みんなで仮装する事や、街を飾り付ける事、おばけとかが現れるけど仲良くもなれる事。お菓子を子供達にあげる事。仮装したみんなで楽しく騒ぐ事。所々間違ってもいますけど、楽しい雰囲気は十分に伝わるような素晴らしいプレゼンでした。

 けれど、ペンギン達の村には元々なかった催しです。なので、話を聞く村人は誰ひとりとしていないのでした。


 そうこうしている内に時間も流れ、10月の下旬に差し掛かりますが、まだクロの話を聞いてくれる人は1人も現れません。流石の彼もここまで来ると自分の力に限界を感じてしまいます。

 無力感に襲われたある日の夜、村の外れにある星見の丘でクロは1人満天の星空を眺めていました。


「はぁ……。どうしたらみんな分かってくれるんだろ……」


 彼は頬杖を付きながら、開いた方の手で適当に星をなぞります。それはクロが昔からしている夜の遊びでした。星と星をなぞって架空の星座を作るのです。


「あの星と、この星と、この星を繋いでっと……」


 彼が適当に星と星を繋いで遊んでいたその時でした。適当に結んだその図形が閉じられた時、作ったばかりのオリジナル星座が突然強い光を放ったのです。そのあまりのまぶしさに、クロは思わずまぶたをギュッとつむるのでした。


「うわっまぶしっ!」


 この光は一瞬で消えて、辺りはまたいつもの静寂の世界に戻ります。元の明るさに戻ったので、彼はおそるおそるまぶたを上げました。すると、目の前に可愛らしい女の子が立っているではありませんか。

 この謎現象にクロは驚いて声も出せません。なので、最初にコンタクトを取ったのは女の子の方からでした。


「はじめまして。私は魔女のルル。あなたが私を召喚してくれたのね?」


 どうやらその女の子は魔女のようです。魔女と言うものを初めて目にしたクロは、すごく怖くなってすぐに逃げ出しました。


「うわああーっ! バケモノ~!」

「ちょ、失礼ね! 待ちなさいよ!」


 魔女は逃げる彼に向けて可愛らしいステッキを取り出して軽く振ります。するとどうでしょう。クロの足は一歩も動かなくなってしまいました。そう、ルルの魔法の力です。彼女は身動きの取れないクロの側までリズミカルに歩いていきました。


「自己紹介の途中で勝手に逃げるのは失礼だぞ」

「あ、あのっ、僕美味しくないですー!」

「食べないよっ!」

「え? そうなの?」


 こうして意見のすれ違いを修正して、彼も一旦落ち着きます。話を聞ける準備が整ったところで、ルルの自己紹介は続きました。彼女によると、クロの遊びによって魔法陣が完成した事、その魔法陣によってルルがこの地に召喚された事などが分かります。


「私を召喚したんだから、お願いを言いなさいよね!」

「え? お願い?」

「私は召喚主、マスターのお願いを聞かないといけないの。そう言う掟なの!」

「えぇ……」

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