第2話 渋谷ハロウィン
何故だか上から目線で願いを強要されてしまい、クロはぽかんと口を開けます。ルルの顔は真剣で、その圧が彼の心に重くのしかかってきました。これはどうやってでも願いを口にしなければいけない流れです。
ゴクリとつばを飲み込んだクロは、目の前の可愛らしい魔女の顔を見つめました。
「お願いって、何でもいいの?」
「当然でしょ? 星渡りの魔女に不可能はないわ」
「じゃあ、人間のお祭りに連れてって!」
彼はダメ元で今一番求めていた望みを口にします。それを耳にしたルルは、袖の中からスマホを取り出しました。いや、スマホっぽい魔法道具なのかも知れません。
とにかく、その道具を操作して彼女は何かを調べているようでした。
「適当に『お祭り』で検索してみたんだけど、マスターはどこに行きたい?」
「本当に連れてってくれるの?」
「当然。魔女に二言はないわ」
「じゃあ……」
クロは魔女の差し出したスマホっぽいものを眺めます。そこにはたくさんの人間のお祭りが表示されていました。知らないお祭りも多く、改めて知るお祭りの多様さに彼は頭がクラクラしてきます。
そうして、興味の赴くままにズラッと一覧を眺め、その中からひとつのお祭りに目を留めました。
「やっぱりハロウィンがいい! これでお願いします!」
「ハロウィンね! まーかして!」
マスターの望みを聞いたルルは、軽くステッキを振ります。するとどうでしょう、2人はハロウィンで盛り上がる人間の街に一瞬で転移してしまいました。クロはいきなり多くの人の行き交う繁華街に来てしまい、困惑しながら顔をキョロキョロと動かします。
「すごい、ハロウィンで盛り上がってる! 渋谷って言うんでしょここ!」
「ええそうよ。マスターが一番喜びそうな街を選んであげたわ」
興奮するマスターの様子を目にして、ルルも満足げです。こうして多くの人々が盛り上がる中に突然ペンギンと魔女が出現した訳ですが、渋谷に集まった人々はこれも何かのイベントだと思ったようで、誰1人としてパニックにならないのでした。
それどころか、逆にサプライズだと大いに盛り上がります。
「魔女だ! かわいい!」
「すっげ! マジペンギンじゃん!」
「これ何のイベント?」
「流石渋谷ハロウィンじゃん!」
周りはコスプレをした人々でいっぱい。みんなとっくに出来上がっています。そんな中に突然現れた魔女とペンギンですから、人が集まらない訳がありません。一瞬でクロの周りに人だかりが出来ました。
ルルは魔女の格好でしたけど、ハロウィンでは別に珍しい格好ではありません。今夜はアチコチに魔女コスプレの人がいますからね。と言う訳で、本物のペンギンの方に人が集まるのは必然なのでした。
「何々? 可愛い~っ!」
「ペンギンちゃん、握手しよっ!」
「渋谷ハロウィンにペンギン! これはバズる!」
「いえーい! トリックオアトリートーッ!」
多くの人から注目を浴びながら、クロはスター気分を味わいました。なにせハロウィンで集まっているのですから、みんなコスプレ姿。オーソドックスなモンスターやらアニメキャラやら有名人やら元ネタの分からないのやら、周りはそう言う格好の人達ばかりです。
なので彼も謎の異世界感を感じ、その非日常性に酔いしれます。野次馬達がクロやルルを撮影した画像もネットに出回り、それらはすぐにいいねの数を増やしていきました。
クロがいい感じ浮かれていると、そこにルルがやってきて何かを手渡します。
「はい、これ」
「え? 何……?」
「さっきもらったからあげる」
それはハロウィンを象徴するかぼちゃのキーホルダー。初めてのハロウィングッズを手にしたクロは、興奮して目を輝かせます。
「有難う。すっごい嬉しい!」
「うんうん。大事にするんだぞ」
このやりとりで、2人はニッコリと笑い合います。その後、更に多くの人がクロの周りに集まって、ルルは少し離れた場所から彼を見守る形になりました。
ネットで人気になると、悪い事を考える人が出てくるのが世の常ですよね。SNSでバズった途端、人気のペンギンを狙う怪しい影が動き出しました。それは全身が黒ずくめの、いかにもな雰囲気を漂わせたふたつの人影。
ハロウィンで盛り上がっている隙を突かれ、クロはその2人組の悪党に呆気なく拉致されてしまったのです。
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