第3話 もう1人のヤバい魔女

「へへ、やりましたね兄貴!」

「ああ、早く姉御のもとに持ってくぞ!」


 このマスターのピンチに、ルルはワンテンポ遅れて気付きます。当然すぐに追いかけました。ステッキを空に放り投げると、それは一瞬で魔法のほうきに早変わり。

 ルルはほうきにまたがって2人組を追跡しました。そうして、別のステッキを取り出して足止めをしようと魔法弾を放ちます。けれど、その攻撃は見えない壁に弾き返されてしまうのでした。


「嘘? なんで?」


 足止めが出来ない以上、彼女は追跡だけに集中します。一連の出来事は多くの人の見ている前で行われたのですが、みんな何かのイベントだといい風に勘違いしてくれて、無闇に盛り上がっただけで済んだのでした。


「マスター! 絶対に助けるから!」


 ルルが追跡を続けると、2人組は人気のない路地裏へ。そこにはもう1人の仲間が待っていました。すうっと気配なく現れたその影は、追いかけてきたルルに向かって、精神的な圧力をかけてきます。


「あんた、ここで手を引きなさいな」

「あなた達が捕まえたのは私のマスターです! まだ願いを叶えている途中なの! だから返して!」

「どうやら話が通じないようだねぇ……」

「「姉御!」」

「分かっているよ。生意気な魔女にはちょっとお仕置きをしなくちゃあね……」


 悪党2人組に姉御と呼ばれたボスらしきその影が、ゆっくりとその正体を明らかにします。ルルの前に現れたその大物っぽいオーラをまとった人物の正体は――何と、彼女と同じ魔女でした。ボスが魔女だからこそ、ルルの魔法が弾かれたのです。

 相手が同じ魔女だと知ってなお、ルルの決意は変わりません。


「マスターを返しなさい! でないと……」

「私の部下達には指1本触れさせないよ。それと、この獲物も渡さない。あんたこそ怪我をする前に消えな」

「じゃあ、どちらの想いが強いか戦って決めましょう!」


 と言う訳で、ここで突然の魔女対決の幕が切って落とされたのでした。


「ふん! 生意気な事を言うガキだね! 捻り潰してやるよ!」

「あら? 潰されるのはどちらかしらね?」


 ボス魔女が杖をかざして電撃を放つと、ルルはそれを即座に弾き返します。その隙を狙ってルルが小さな星のかけらを撃ち込みますが、ボス魔女も空間転移を繰り返して命中させる事が出来ません。

 魔女同士の魔法対決はその後も続き、その結果は一進一退。周りに被害を拡大させながら、お互いはほぼ無傷のままでした。


「「ひええ~っ!」」


 この激しい戦いを目の当たりにした魔女の部下達は怖くなってこの場を離脱。自分達の命を最優先したので、拉致したクロはその場に放置です。彼をマスターと認識しているルルは、戦いの中でもその状況をしっかり認識していました。

 そうしてボス魔女の魔法攻撃を避けつつ、何とかクロの救出に成功します。


「マスター、大丈夫ですか!」

「う、うん。何とかね。それにしても本物のハロウィンはすごいなぁ」

「いやこれは違うから!」


 ルルが彼の誤解を解こうとしたところで、ボス魔女の魔法弾が散弾のように一気に降り注ぎます。一瞬でその危機を感じ取ったルルはとっさに魔法障壁を展開。ギリギリでこの攻撃を防ぎました。

 その手際の良さを見たボス魔女は、何かに気付いたようです。


「へぇ……。あんた、この星の魔女じゃないね?」

「ええ、私は星の力が魔力を持って生まれた存在! 強い願いによって命を得たの! だからマスターは渡さない!」


 ルルはあっさりとボス魔女の言葉を認めました。そう、彼女は星の精霊だったのです。ルルの正体を確認したボス魔女は、魔女らしくニタアリとヤバそうな笑みを浮かべました。


「ふぅん、星渡りの伝説は本当だったのかい。珍しいからあんたも私のコレクションに加えてあげるよ!」


 ボス魔女は強力な魔法を撃ち出す杖を両手に持ちます。コレクター魂が燃え上がり、本気になったのです。彼女はそのまま空に向かってそれぞれの杖をかざしました。そうして、恐ろしい形相でひたすら両方の杖に魔力を注ぎます。


「ペンギンも星渡りの魔女もどっちも手に入るだなんて、今日はなんていい日なんだろうね!」


 ボス魔女から漂う膨大な魔法エネルギーを感じたルルは、超強力な魔法攻撃が放たれる予感を感じて若干怯みました。その魔法に耐えられる術式を構築するための計算を頭の中でしている間に、先に攻撃が放たれてしまいます。

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