第4話 激戦の末に
「大丈夫! 殺しはしないからあ!」
「ルルーッ!」
クロはボス魔女の攻撃対象がルルだと察知して、即座に彼女の前に立ちはだかりました。ボス魔女から放たれた質量を持って侵食する無数の影は、全て彼に吸収されます。
当然、全ての攻撃を受けきったクロが無傷で済む訳がありません。
「うわああーっ!」
「マスター!」
「ちっ! ペンギンが全て飲み込んだのかい! ならば次はこれだよ!」
自慢の攻撃を防がれたボス魔女は、すぐに第二撃の準備にかかります。守るべきマスターに守れたルルもキッとボス魔女をにらみつつ、握っているステッキに力を込めました。
お互いが攻撃の意思を強めたところで、ここからのバトルは純粋な力比べになります。
「霊門開放、おばけアタック!」
「流星魔法、スターダストクラッシュ!」
ボス魔女は、霊界の門から無数の意志のないおばけ達の大群を召喚します。対して、ルルはステッキから魔力を介して具現化させた無数の流れ星の弾によって次々にそれを消し続けていきました。
ぶつかり合うふたつの力はほぼ互角。消耗戦の始まりです。ボス魔女もルルもお互いに一歩も引きません。
ただし、あまりに強力な魔法の応酬となったため、周囲の空間が徐々にその力に耐えきれなくなってきていました。このまま戦いを続けると空間に亀裂が入り、全てを飲み込むマイナスエネルギーが発生してしまいかねません。
お互いにその危険性に気付きながら、でもどちらも攻撃の手を緩める事が出来ないのでした。
「や、やるじゃないか小娘……」
「そっちもね、おばさん!」
2人の魔女の頬に一筋の汗が流れます。力はほぼ互角でも、その魔力の残量的にはボス魔女に分があるようでした。力を使いすぎたルルは、体勢を崩して片膝をついてしまいます。
それをチャンスと見たボス魔女は、握っている杖に更に魔力を注ぎ込みました。
「どうやらここまでのようだねぇ!」
「喧嘩はやめてよ!」
もう少しで決着がつくかと思われたその時、さっきの攻撃で倒れていたクロが立ち上がり、ボス魔女に向かって声を張り上げます。その必死そうな姿を見たボス魔女は、気が変わったのか突然攻撃をやめてしまいました。
「あ~あ、白けるんだよね。そう言うの」
「え?」
「もういいや、やめやめ」
彼の必死さを見てすっかりやる気をなくしたボス魔女は、そのまま闇の中に溶けるように消えていきます。結果的に戦いは終わり、クロは一気に力が抜けてその場に座り込むのでした。
「あはは、やった……」
「流石です。マスター!」
ボス魔女との魔法対決でほぼ力を使い切っていたルルは、この戦いを止めた功労者のクロに近付き、思いっきり抱きしめます。彼もしばらくは抱きしめられるままでした。
ですが、余りにギューッと力を込められるので苦しくなって、その抱擁を解こうと力いっぱい手を伸ばします。
「もういいよっ!」
「あっごめんなさい」
「それよりさ、もうおかしな人もいなくなったし、またハロウィンを楽しもうよ」
クロはあんな目に遭った直後だと言うのにもうすっかりニコニコで、ルルにすっと手を差し出します。その手を握りかけた後、ゆっくりと戻した彼女は少し淋しげな表情を浮かべました。
「ごめん。力、使いすぎちゃった……」
彼女はそう言い残すとすうっと姿を消していきます。ボス魔女との戦いでルルは限界に来ていたのです。目の前で消えていく彼女を見ても、クロはこの現実をすぐには受け入れられませんでした。
「待って! 消えないで!」
そう叫びながら、彼はガバリと起き上がります。さっきまで大都会にいたはずなのに、そこはクロの自室で彼はパジャマ姿でベッドの上にいました。キョロキョロと周りを見渡したクロは、自分の中の記憶との答え合わせをします。
そうして、今目に見えているものを信じるしかなくなってしまったのでした。
「まさか、夢……だった?」
いきなり魔女と出会って海の向こうの都会に行ったと言う話より、そう言う夢を見ていたと言う方が辻褄は合います。ついさっきまでの大冒険が全て幻だと分かって、クロはがっくりと項垂れたのでした。
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