なか君の一目惚れ

河童

とあるデパートの美少女

 次の授業は自習らしいので、私は休み時間から本を読むことにした。月曜の午前から勉強をする気など到底ない。


「うわっ、またラノベ読んでる」

 なか君が読書中の私に突っかかってきた。いつものように、私のオタク趣味に文句を言うつもりらしい。

「いいじゃない、ラノベくらい」

「違う。カバーぐらいすればいいのにと思って」

「ああ、これ買った時のレジの人が新人さんみたいでね、ブックカバーについては何も言わずに渡してきたからまあいいかなと」

「良くねーよ。てか、はた迷惑なレジ担当もいたもんだなぁ。どこの本屋?」

「デェルティの。まあ、眼鏡を直してもらう時間が暇だったから寄っただけなんだけど」

 デェルティとは近所の大型百貨店である。そこで買った眼鏡のフレームが曲がってしまったので、直してもらったのだ。


「あー! デェルティ!」

 なか君は何かを思い出したように、勢いよく私の机の上に手のひらを押し付けた。


「何よ?」

「俺も昨日行ったんだよ。そしたら、すげー可愛い子がいて」

「知ってる人?」

「いや、全く。見た感じは女子高生くらいだったんだけど、とにかくすごい好み。もうね、一目惚れってやつだこれ」

「ふーん。声かけなかったの?」

「無理、無理。そんなことできたら苦労しないだろ」

「この意気地なしが。具体的にはどんな子だったの?」


 なか君は上の方に視線を上げて「んー」と唸る。

「確かグレー系のニットに白のフレアスカートが……」

「こわっ! 覚えてるの!?」

「立ち寄ってた場所は……服屋と文房具屋と、それから本屋にも行ってたと思う」

「もはやストーカーじゃん」

 彼の応援が出来ればと考えていたが、ここにきて止めといたほうがいいのではと思ってしまった。犯罪はいけない。


 あれ? 何か引っかかる。ニットとスカート、本と服と文房具。

 私は本屋に行く前は……。

 いやしかし、そんなことがあるのだろうか。まさか、それはあり得ない。でも、あり得ないと分かっていても状況的にはやっぱり……。


 ああ! もういいや! どうにでもなれ!


「ねえ……。私その子のこと知ってるよ」


 なか君は私を見て、口を開いたまま固まった。

「その女の子はこんな顔だったんでしょ」




 …………。



「あのさ」

「何?」

「昨日まで一緒にゲラゲラ笑ってた女友達のことが好きになったんだけど、これって叶わない恋だと思うか?」

「なに弱気になってんのよ。気合と根性でどうにかしなさいよ。売り切れになっても知らないんだからね」

 

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