まず、この作品……だだごとでは無い!
ネタバレを含みたく無いので、抽象的な表現となりますが、
人間という生き物の持つ『業』や『情』
その複雑で複数の感情を、まるで絹糸の様に紡いでゆくストーリー。
そして、その美しい糸は読者の心を締め付け、また、優しく包んでもくれます。
作中の表現と描写は、時に深い沼の様に、またある時は夏の青空の様に…
もう名言だらけで、その美しい旋律に鳥肌が立ってしまうことは間違いないでしょう。
序盤から面白いのはもちろんのこと、中盤以降のブーストのヤバさは、名作と呼ばれる作品に起こる症状そのものです!
私がカクヨムで読んだ現代ファンタジーの中で、間違いなく一番と言い切っていい素晴らしい傑作です。
もはやこの作品は、タダで読ませていいレベルじゃ無い!
是非、皆さんも素晴らしい読書体験を感じてみてください!
「人間って、何だろう?」
物語は十六歳とおぼしき少年の問い掛けから始まります。
十六歳とおぼしき……その理由は、彼の正確な生年月日が不明だから。
少年は古今東西の哲学者の思想を借りて学び思索します。
自分を『毒虫』だと思い、何をもって『人間』と言えるのか、思索しています。
そんな彼と同じ境遇に居る少年は、彼の思索癖を宥めながらも想いを共有しているかのようです。
この世とあの世の境に咲くという幻の桜『魔王桜』を前に、毒虫に成りたいと願った少年が『アルトラ』と呼ばれる種を植え付けられ、異能力に目覚めていきます。その過程で出逢った少年少女たちと心を通わせ、心の枷を外し、欠落を乗り越えて生きて行こうとする姿に感銘を受けました。
友人関係のみならず家族関係にも言及する思いの丈にマーラーの『夜の歌』が合わさり、シンフォニーを奏でる群像劇。
作者様ならではの哲学を内包するダークファンタジーです。