チートハーレム転生しましたが、今は後悔しています
闇谷 紅
突然の死、そして
「ぐ、あ、がっ、うぐぅ」
取り繕う余裕すらなく、痛みにのたうつことさえ出来ない。ただうめき声を漏らすうちに視界は暗くなり。
「生まれ変われるなら、次はチートハーレムに――」
それまでが嘘の様に痛みが消えて、意識までもがとけてゆく中で、俺はそう漏らしたんだと思う。
◇◆◇
「正直、あの時のことは曖昧だったしなぁ」
気づけば俺は転生していた。空は青く、雲は白い。だが、月は前世で最後に見たモノと大きさも表面の景色も違っているような気がするので、きっとここは異世界なのだと思う。
「陛下、どうなさいました?」
訝しむ女性の声に、何でもないと返事が返る。汚れ一つない高級そうな衣服に身を包んだ一人の男の周囲には何人もの見目麗しき女性たち。ここは後宮、つまりハーレムであり、陛下と呼ばれた男はこの後宮の主にして国の王だ。
「そして、この建物こそ俺の身体だったりする――」
そう、俺は転生したのだ、後宮(建造物)へと。
「いや、違うだろ!」
意識が戻って状況を把握すれば即座に突っ込んだ。
「待って」
とも思った。待ったところで転生は終了しており、もうどうにもならないのだが、そんな論理的思考を転生仕立てでできるはずもない。
「確かにチートハーレムとは願った、けどこれじゃNEEEEEEEEEE!」
一体誰が建造物になりたいというのだ。
「『私は普通の女子高生』と言おうとして『私は普通の女子高』って建築物宣言しちゃったとかじゃないんだぞ?!」
そんな迂闊なことを言ったら、少なくとも二週間ぐらいは弄られそうだけれども、弄られるで済めばまだましだ。建造物になってしまったら、動くこともできなければ、物の飲み食いもできないのだ。
「そりゃ、最初の内は綺麗な女の子の入浴とかその他もろもろ見放題とか考え方を変えて存外悪くないかなって思ったこともあったさ」
だが、人間は悲しいことに、刺激には慣れて行く生き物だ。俺はもう生き物でもないけど。
「自分は何もできないうえに、何十年何百年と見てればなぁ」
チートを願っただけあって、俺の身体は特別製だった。数百年たっても老朽化の兆しは一向になく、嵐で木が倒れてきて建物の一部が破壊されても、倒れてきた木が退けられれば損壊した部分が勝手に治ってゆくのだ。つまり、自己修復機能付き。他にも防音防火性もたかく、それよりなによりぶっ飛んだ能力を備えている。
「後宮に『洗脳』とか、うん」
何も知らなければ何故そんな機能持たせたとツッコんでいるところだが、この機能が俺に与えられたのは建物として建造が終わった直後。
「私はもう二度と見たくないのだ、肉親が血で血を洗う凄惨な権力争いをする様など」
意識がある中、当時の王と思しき若い男が悲しそうな目でそう言っていたのを、俺は覚えている。
「親兄弟親戚の殆どを失ったんだったかな?」
俺は後宮なので中に居る人間の会話を聞くこともでき、それでおおよそのあらましは知っている。権力を求めて親兄弟で殺し合った末に王となった若者は、同じことが起きない様に後宮に住む人々を洗脳することにしたのだ。
「正室と側室は互いを尊重し、妬心を抱かず、友愛の情に満ち。兄弟は互いを敬い、慈しみ、支え合って国をよりよきものへ。王は国と民を愛し、より反映させることに砕身せよ」
洗脳の内容はだいたいそんなところで、この後宮に入ってしばらくすればどんな悪女も醜いところを漂白され、後宮で生まれ育つ王子及び王女たちは兄弟仲が臣下が引くほど良いまま育ち、後継者争いは完全に絶えた。
「名君しか生まれず、国のトップが常に健全だから国が傾くことなんてない、か」
故にこの後宮が攻め込まれて倒壊する危機などと言うモノも訪れず、治世が良いからこそ市民が革命を起こして王朝を打倒することもなく。
「俺、ずっとこのままなのでは?」
隕石が降ってきたとか言うレベルの大災害でも起きない限り、後宮としての俺の人生、いや建物生は終わらない気がする。
「『チートハーレム何てそんなに良いモノじゃない』か。鈴木、お前の言う通りだったよ」
前世で主張の違いから喧嘩別れした友人の言葉を時々思い出す。アイツは純愛系一夫一妻派だった。
「俺もアイツと同じだったなら――」
建物に生まれ変わらずに済んだのだろうか。
「さて、もう中に入るとしようか、アレクサンドラ。皆もな」
「はい、陛下」
「おおせの通りに」
知覚する範囲内で行われる王と正室そして側室たちのやり取りを聞きながら、俺はいつもの様に後悔していた。
チートハーレム転生しましたが、今は後悔しています 闇谷 紅 @yamitanikou
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