第2話

 その後、僕は帰ってからバスルームへ向かった。 そしてバスタブに思いっきり氷水を作り、そこに浸かった。

 

 正直、能力を使ったり、骨を出したりする度に、全身の筋肉で身体を支えなくてはいけなくなるし、能力を使えば全身の血液の巡りが早くなるので、かなり体温が上昇してしまっている。

 ましてや、人間とかけ離れた自然回復力は、逆に全身の細胞がかなりの速度で再生する。だから更に体温を向上させているのを感じる。とにかく全身の疲労が凄いんだ。


ーーーーーー


 次の日、いつも通りiPhoneの目覚ましがなると僕は目を覚ます。


 顔洗って、歯を磨いて、スーツに着替え、マウンテンバイクでオフィスへ向かう、いつも通りの日常。


 オフィスに着くと、先にボブが自分の席で朝から美味しそうにスニッカーズを頬張っている。 ボブは、金髪の白人男性で、かなりふくよかな男だ。モーニングを食べてきただろうに、彼は毎朝僕よりも少し早めにオフィスに着いてはスニッカーズを美味しそうに頬張っている。これが彼のルーティンなのだろう。


「おはよう!デイビット。 」

 いつも通り、ボブは明るく僕に挨拶をする。

「おはよう。 ボブ。」

「なあデイビッド!聞いてくれよ。ニューヨークタイムズよりも恐ろしい最新のニュースがあるんだ。僕の好きだった女の子が他の男を好きだったんだって。まるで神に見放された気分だよ。 」

「それは残念だったね。ボブ、でもその君のニューヨークタイムズよりも、もっと重要な最新のニュースがある。今日はミーティングだ。資料が完成していないなら急いで作らないと 。」


 ボブと話していると、後ろから黒人で眼鏡をかけた長身の男性が、怖い剣幕で近づいてきていた。この男性こそ、このオフィスでのボスのスコットだ。

 僕は、スコットの存在に気が付き、「後ろからスコットが来ているぞ」とボブにジェスチャーを送ったが、ボブはまったく気が付かない。それどころか……


「そうだよね。 なんてたって俺達のボスのスコットに怒られちまうよな。」 

「やあ。ボブ、おはよう。ミーティングの資料が完成していないのは、お前だけだぞ?なのに随分朝から余裕だな。」

「スコット?!お、おはようございます!」「ボブ!今日のミーティングはとても重要なんだ。しっかりと頼むぞ。」

 スコットはボブを軽く睨み付けると、スコ自分の席に向かって行った。 ボブがまるで泣きそうな子供のような目線で、僕に「 なんで教えてくれなかったんだよデイビット!」と言ってきたが、僕は小声で、「僕は君にジェスチャーで伝えただろ。」 と、返答した。


ーーーーーー

 

 この身体になってから、僕は人間関係を最小限にしている。

 ただでさえ、同じ様な人物が僕に近付いてくるのに、誰かと関われば、その人物を何かに巻き込んでしまうかもしれないだろ?


 ちなみに人間だった時の僕の名前は「サム」。生まれも育ちも、アメリカのボルチモアだ。母が、『アイ・アム・サム』という映画が凄く好きで、「サム」という名前をつけてくれた。でも家族には、僕は事故で死んだ、という事になっている。

 興奮すれば目の色は変わるし、体温も上がる。だからガールフレンドなんて作れるわけがない。


 だから、今は「ディビス」という新しい仮の名前と姿で、ここニューヨークで過ごしているんだ。

 

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