第3話
僕がこの身体になったきっかけを話しておこうと思う。
それは大学生の時だった。高校を卒業してから親元を離れて大学寮に住み始めた。
両親からもらった車で通学していたのだけれども、事故で車を壊れてしまってね。
修理費がとても高くて、事故や修理費の事を両親にカミングアウトするのも気まずかったから、短期間で高額のアルバイトを探したんだ。
それで、一週間の住み込みのアルバイトを見つけた。内容は、離島にある病院の手術室の手術後の掃除や片付け、という内容だった。
そのアルバイトでは、はじめに色々な誓約書にサインをさせられた。
なんせ病院の手術室の片付けだ。
「感染病になっても保証さしません。」とかそんな内容だった気がする。
さっそくアルバイトが始まって、たくさんの手術室の手術後の片付けが始まった。
何せハードだった。一応ガスマスクと手袋をしていたけれども、なにせ手袋が薄かった。最終日には疲れがピークだった。それで手術器具を片付けている時に、器具で手を切ってしまったんだ。
ただ、作業時間は限られているし、次の手術室の作業まで時間がなかったからそのままその傷を僕は放置してしまった。
その後、大学寮に戻る帰宅途中にハンバーガーショップでハンバーガーとバニラシェイクを買ったんだ。そしたらハンバーガーはスポンジを食べているみたいで、トマトのみずみずしさとレタスのシャキシャキの食感はわかったけれども味がしなかった。あと、バニラシェイクも冷たいのはわかるけど甘さがわからなかった。そのまま大学寮に着いた途端に身体中が熱くなった。脈が早くなって物凄く喉が乾いて目眩がした。ふらつきながらバスルームへ行って、何かに取り憑かれたかのようにシャワーの蛇口をひねって水を浴びながら、シャワーからの水を飲んでいた。ふ、と鏡を見たら、全身の血管が浮き出ていて、僕の目は充血し、青く赤く光っていた。
“人間の姿じゃない”
僕は、そう思った。
そのまま僕は気を失い、バスルームで倒れていた。
ーーーーーー
その日から僕の日常は一変した。
視力や聴力が異常なまでに発達し、よく見えてしまう。よく聴こえるから常に頭痛に悩まされた。相変わらず食べ物の味はわからない。ガールフレンドとセックスした時も挿入した瞬間にガールフレンドが昇天してしまった。
あと、その後も同じ様な特殊体質の人間…いや、僕達は人間なのだろうか?……まあ、同じ様な体質の人間が現れて襲われたりした。誰にも身体の事は話していないのに、どうやら同じ体質の人間には「同族だ」と、わかるらしい。
それで、いよいよ普通の生活もできないし、もしまた誰かが現れて、家族や友達やガールフレンドに危機が迫るかもしれない。
これからどう生きてゆけばよいのかわからなくなった僕は……僕あの日人間を辞める事を決意した。
そう、 自殺をしたんだ。でも、ビルから飛び降りたのにあっという間に体の穴が塞がって目が覚めてしまった。
普通の病院でこの身体の事は対処出来ない、と思った僕は、あのアルバイトの病院へ行って、事の経緯を相談した。
すると、話を聞いてくれたドクターが大喜びをした。
……そしてそのまま僕は拘束された。
どうやらこの病院は、人体実験を行っていたらしい。
自然回復力の凄まじさから毎日拷問の様に人体実験をされた。身体の解剖なんて可愛いものに感じられた。炎で身体を炙られるだけじゃない。ガソリンを飲まさせられてガスバーナーを口から突っ込まれたり、点滴でガソリンを体内に流されてから同じ様にされたり。それである日、背骨を無理矢理取る実験をされた時に、薄れゆく意識の中で、取り出された背骨が青く光って形のイビツな刀みたいになったのが見えたんだ。
常に全身拘束されて実験室と牢屋みたいな部屋への搬送の日々。
このまま僕はどうなってしまうのだろう?
もし逃げ出すなら……チャンスは実験室で実験台に乗せられて、手を拘束される一瞬しかない!と、考えた僕は、そのタイミングを待った。
いつも通り実験室へ運ばれ、科学者達に実験台へ移動されそうになった瞬間、僕は暴れ、手が自由になった瞬間に首に手を当てて、切込みを入れて一気に背骨を抜き出した。そして、やはり背骨は青く光るイビツな刀となった。そのまま僕は実験室の科学者達を暗殺してしまった。
そしたら、別の特殊体質者が現れて、僕はあっという間に、また拘束されてしまった。
でも今度は違った。その日から拷問の様な実験は無くなり、今まで点滴みたいなので栄養を体内に流されていたのに、三食まともな食事が運ばれる様になった。……まあ、味覚がなくなったから味はわからなかったのだけれども。
そしてある日、別室に呼ばれ、そこには組織のボスだと言う人物がいた。
彼に「我々はテロリストだ。そして君は本当に素晴らしいミュータントだ!このままその身体で普通に生きていけると思うか?無理だろう。ならば我々の一員にならないか?身の保証や優遇もしよう。」と、言われた。
確かに、このまま普通の日常生活を送れるわけがない。
きっと、どこに行っても危険と緊張しかない生活となるのだろう。
しかし、だからと言ってテロリストの一員となってよいものなのだろうか?
ーーーーー
結局、僕は彼等の一員となる事にした。
そのかわり、家族や友達、ガールフレンドに心配をかけないように、一度元の「サム」としての生活に戻らせてほしい、と頼んだ。
大学の夏休みだった。大学寮へ戻り、友達やガールフレンドと束の間の生活。そして両親の元へ帰り、そこで僕は地元のビルの窓の清掃のアルバイトをした。
そして、そのアルバイト中に僕は足を滑らせて転落死した……という事にしてもらった。そう、テロリスト達に違う男性の顔を整形して僕が死んだ事にしてもらったんだ。
その後は、「サム」ではなく、新たに「デイヴィス」という人物としてのパスポートや身元保証等の準備をしてもらい、住む場所や、職場を見つけ、新たな人生を歩む事となる。
もちろん、この身体と能力でこれ以上、悪に手を染めるつもりもなかった。
僕は最後の仕事だ、と思いそのテロリスト集団も全員暗殺し、病院や施設も焼払った。
これで後腐れなく、誰かを傷つけたり巻き込む事なく生きてゆける。
そう思っていたんだ。
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