第14話 真実

 アシクリを殺した!


「坑道で最後に倒された魔物は、広場のなかにいました。

 アシクリ殿が外に出ないよう抑えていたからです。

 ならば、リディティック殿が到着するまでは戦っていたことになります」


 騎士でもあるオビシャット卿は、すでに気づいていたらしい。


「証拠があるか」


 期待を持ってクェルスに聞いている。


「残念ですが。

 2回目にリディティック殿に同行した者は、水晶を投げ入れるところを見ておりません。

 彼は他のものが水晶の影響を受けないよう、広場前から1人先行したらしいので」


「この後は、私の推測です。

 水晶は広場の中で砕けていました。

 入り口を守っていたアシクリ殿は、どこを向いていたのでしょうか」


 中の魔物たちに対峙していたはずだ。


「中にいた魔物を牽制していた。

 その背後から水晶が投げ込まれ、視線の先で閃光が放たれたため、目が見えなくなってしまった。

 視力を失ったアシクリ殿は脇腹を刺され倒れた」


「では、兄は目が見えなくなったために戦えなくなったと」


「見えていたら味方が来たとわかります。

 剣を折る必要はありません」


「以前、ナクラ卿の屋敷におうかがいし、残っていたアシクリ殿の鎧を見せていただいています。

 鎧の傷には魔力の痕跡がありました」


 それは


「その場に有った魔力を持つ武具は<ネセルシュト>だけ。

 <グリス>はすでに魔力を失い。

 <ニプルス>を持つ者は逃げ去っています。


 そもそも魔物も目がくらんで、動けなかったはずです。

 ですが、リディティック殿がアシクリ殿を刺したという証拠にはなりません。

 ですので、真実の鏡の前で聞いてほしいのです」


 それでは、本当に殺されたのか。


「なんということを。

 アシクリを」


 コーライン様がよろめいた。

 ゴーラ神官が駆け寄り、支え助けてくれた。


「主神ケデレアに誓います、この不実を明るみにすると」


 胸にかけた聖印を白くなるほどに握っている。


「こんな事は許されない」


「リディティック殿は、ラバーシムの計画を本当に知らなかったのでしょう。

 ラバーシムの計画はすでに完成していました、アシクリ殿を殺す必要などなかったのです。

 現にブルムラー公爵が密約と自己の利益のために動いていました」


 クェルスの言葉に、オビシャット卿が驚いている。

 気が付いていなかったらしい。


「アシクリ殿が苦手な貴族間での問題が起きるはずでした。

 これを解決した場合には、有力貴族の信用を得られるはずです。

 坑道での失敗は取り返せたのです」


「もともと坑道の討伐は参考の1つとしていた」


 オビシャット卿の声に抑揚はない、すでに怒りは限界を超えているのだろう。


「アシクリ殿を殺す必要などない。

 彼に対しての不名誉な評価も、リディティックが流したものだろう。

 隊長どころか、騎士と呼ぶにも値いしない」


 卿はコーライン様に頭を下げ。


「私の力が足りず、長い間アシクリ殿に不名誉を。

 申訳ありません」


「いいえ。

 オビシャット卿のせいではございません」


 コーライン様は泣いていない。

 だが、カリーエ様は涙を流し、俺は声を殺して泣いている。


「アシクリ殿の汚名を晴らします。

 まずはラバーシム。

 魔剣ができたという事実で、やつの発表をすべて否定してやる。

 そうすれば<ミグリアレ>も調べることが出来る。


 こうなれば、王を騙した疑惑もだ。

 確実に魔剣ではないのだろうな」


「王と名のり剣を抜けば反応します。

 私が持っても光りました。

 兄上が持っても応えるでしょう」


 王宮の宝物庫の中にある剣をどうやって抜いたんだ。

 もう誰も驚いていない。


「ナクラ卿、カリーエ様後に元老院から正式に依頼があるかと思います。

 <アシクリ>をお持ちいただけますか」


「はい」


 コーライン様が貴族の礼を返している。


「リディティックの罪が明るみに出れば、騎士団によって処罰されます。

 何が起きたかを公にし、アシクリ殿の名誉を回復させます」


 アマト殿が


「これで良いほうにむかうのか」


 当然のようにクェルスが答える。


「ラバーシムは塔の長になった功績がすべて否定されます。

 これでは長ではいれません。

 また長の名で行われた2つの改革。

 魔具の塔外への持ち出しと、下級魔具の販売が私欲のものとなれば、塔からも追放。

 王を騙したとなれば死刑、疑惑を免れたとしても自由の身にはならないでしょう。

 新しい長はゼジラル商会には、魔具販売は許可しない。

 そして、商会は商売をする上で必要な信用を無くしてしまいます。

 その後どうなるかは想像するしかありませんが」


「リディティック殿は疑いを晴らすためには真実の鏡の前に立つしかなくない。

 そこで自分の本当の罪を告白することになる。

 私欲のために、同じ騎士団員を殺すなど死より重い罰が与えられる」


 オビシャット卿がうなずいている。


「法で裁けるのはここまでですか」


「ブルムラー公爵は」


 オビシャット卿は彼が一番気になっているようだ。


「問題がありますが、法は侵していませんので罪には問えませんね。

 ですが、密約時に女神の天秤が使われています。

 ならば、その契約は遂行しなければなりません」


「無理だろう、リディティックは処罰される」


「関係ありません。

 たとえ全私財を失うことになっても、その身が破滅するまで契約を行おうとします。

 国に反逆してでもです」


「それほど強力な魔法なのか」


「それから、カリーエ殿は魔剣の主です。

 魔剣を持つナクラ家を取りつぶすなど、国がするはずがありません。

 すぐに騎士に任命されるかと。

 多分、爵位が上がるのでは」


 あぁ、そうか!

 カリーエ様は魔剣の主。

 国内外から多くの求婚の申し出があるだろう、

 その中にはカリーエ様に相応しい方もいらっしゃるはずだ。


 すべて終わった。


「これでクェルスへの審議を終わる」


 突然、アマト殿が宣言した。

 意味のない事は分かっているのだろう苦笑いし、オビシャット卿と共に部屋を出ようと歩き始めた。


 クェルスが小さく手を上げている。


「元老院に推薦します」


 オビシャット卿が足を止め。


「なにをだ」


「魔剣製造は『1代貴族』に値する功績ではないでしょうか」


 オビシャット卿が俺とカリーエ様を見て、笑い。


「そうだな。

 異論は出ないだろう」


 さすが兄弟似ている。その笑い方はきらいだ。

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魔法使いの査問 野紫 @nomurasaki

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