第13話 目的
再び部屋は静寂の中にあった。
どうにもならないのなら、何故こんな話をした。
唯一、アシクリの死が剣が折れたせいでないと分かったくらいだ。
「お気づきと思いますが。
その剣は、アシクリ殿の折れた剣を元に、イグリースさんが打ったものです」
クエルスがオビシャット卿の後ろを指差した。
コーライン様が剣に近づき目を落とす。
「良い剣だが持つ者がいない」
困ったようにつぶやかれた。
「カリーエ様のために打ちました」
なんとか声が出た。
カリーエ様が近づいて剣を受け取り
「どうしてですか」
俺を見ている。
「カリーエ様が自警団に入り、功績を立て、騎士団に入るおつもりとお聞きしたものですから。
自分には、これしか」
「どうしてですか!」
俺への言葉と同じだが、今度は怒気を含んでクエルスに向かっている。
誰がそれを言ったのか、すぐに分かったのだろう。
「女性でも自警団で功績をたてれば、騎士団に入れます。
騎士身分となれば、家督を継ぐことが可能です」
「そのことは知っています。
確かに、騎士の家ということもあり、他の女性よりは剣はふるえます。
ですが自警団には私より優れた人は多くいます。
私が功績を立てるなど・・・」
「過去に騎士になれた女性は事前に騎士になることが決まっていた。
手続きとして自警団に入ったにすぎない」
オビシャット卿がこの話を終わらせた。
「私にそのようなお話はありません」
カリーエ様が両手に剣を持ち、見つめている。
ミスティル製の剣は淡く光っている。
「どうしてですか」
今度は誰に対しての問なのだろう。
カリーエ様は剣を見つめている。
小さな少女のように見える。
助けを求めるように、小さな声で呼ぶ。
「兄さん」
その瞬間、剣の輝きが強くなった。
「名剣にはふさわしき名があるもの。
魔剣とは主を選ぶもの」
クェルスは立ち上がり叫んでいた。
「主が名を呼び、魔剣はそれに応える。
カリーエ様、剣にふさわしい名を」
その言葉の意味を理解し、全員の視線がその剣に向けられた。
カリーエ様は一瞬考え、その名を呼んだ
「アシクリ・・・兄さん」
刃が赤く輝き始め、剣先に雷が走る。
「魔剣!」
誰の声かは分からない。
自分だったかもしれない。
クエルスが続ける
「さっきアーヌが長年の解読に成功したと言いましたよね。
<パウジット>は、物ではなく、志や決意などの魂に属するものを指してたそうです。
また、マナに触れてしまえる魔法使いには、持てないものと」
俺を向き
「だから、彼を選びました」
もう腰を下ろしている。
「私は国外へ行き、いくつかの魔剣を見てきました。
そして、すべての魔剣は名刀と呼ばれるものと知りました。
魔剣を打つには、まず優れた刀工の技量がいる」
「俺より腕のいい刀工なら、他にも」
俺の反論は
「数名は名を上げれるかもしれませんですが、思いつく方々はすべてご高齢です、あの炎には耐えれません」
否定された。
「若くしてその領域に達していなければなりません。
なにより、その剣を打つ強い意思理由が必要です。
自らの命も問わないほどの。
魂からの魔剣への欲求を得る可能性があったのは、イグリース殿だけでした」
俺から目線を外し。
「また、そうなってもらうために、嘘もつきました」
ウソ!
「塔の魔具の力も借り。
自分の持てるものすべてを賭け行いました」
クェルスはベットの上に座り直し。
「オビシャット卿」
「あらたまってどうした。気持ちが悪い」
「元老院の招集をご提案いたします。
『魔剣は現代では作れない』と言う塔の公式見解に反し『魔剣の制作』が可能でした。
可能にしたのは、アーヌの解析があったからです。
ラバーシムの研究成果に反しますが、『魔剣』は作れたのです。
同じく、アーヌから預かった資料に『<ミグリアレ>は、魔剣ではない』とあります。
これもラバーシムの発表に反しますが、無視できる内容ではありません。
国における魔剣の所有は大きな問題です。
魔剣<アシクリ>の公表と<ミグリアレ>の検証をご提案いたします」
「急に芝居を始めるな。何かと思ったぞ」
「正規の手続きを進めるためです」
「アマト師。
元老院長官としてお聞きします」
今度はオビシャット卿が芝居を始めた。
「はい」
「<ミグリアレ>が魔剣ではないという進言があり、信頼できる資料も存在しております。
見極めることは可能ですか」
「慎重に調べる必要があるため、多少時間がかかりますが可能かと思います」
アマト殿は礼をしながら答えている。
彼も、この芝居に参加していた。
「では、正式には後日ご連絡いたします」
「これで王を動かすことが可能だ。
魔剣が作れたという事実は大きい」
卿の口調が戻った芝居は終わったようだ。
「<ミグリアレ>が魔剣でないと分かっても、それを公表することはないだろう。
新たに魔剣が生まれた事実に隠れ、忘れ去られることを待つ。
しかし、これで王のラバーシムへの擁護は無くなる。
王を騙したとは裁けないが、王に正しくない進言を行った責任はとえる」
「秘密は漏れるものです、そして噂となって流れてしまいます。
噂を知った人々はどう思うでしょう」
クェルスは自分が漏らすと言っているようなものだ。
「王の庇護が無くなったラバーシムは功績を否定され、塔の長ではいれなくなります。
次の塔の長が誰になるかはわかりませんが、少なくとも魔具販売は噂のあるゼジラル商会にはさせないでしょう」
「寄付が無くなった場合、教会とリディティック殿との関係はどうなります」
ゴーラ神官に聞いている。
「教会がどうするかなど、私が言えることではありません」
「ドティホールン卿は支援し続けるでしょうか」
「分かりませんが。ドティホールン卿は揺らがない方です、噂で動言を変える方ではありません。
噂が本当であり、リディティックがラバーシムの計画を知っていたのであれば、話は別ですが。
ただ、リディティックは何も知らないと、先ほど言われたかと」
「私が調べた限りでは、と言うことになりますが」
「ではこのまま支援を続けると思います」
「ですが、知らないという証拠もありません」
真実はリディティックしか知らないということか。
「噂が有るままではドティホールン卿も今までのような強引な助力はおこなえないでしょう。
真実の鏡の前での審判を求めるのではないでしょうか」
「真実の鏡ですか」
「真実の鏡とはなんだ」
アマト殿は知らなかったようだ。俺も知らない。
「ドティホールン卿屋敷にある真実の祭壇にある鏡だよ。
祭壇の正面にある大きな物で、祭壇の名前の由来にもなっている。
正式な名前は知らないし、魔具か神具かもわからないが、質問に対して写っている像が答える。
答えは肯定か否定だけらしいが、本人の事実のみを答える。嘘はつけない」
「ラバーシムの計画を知っていたかという質問は出来ます。
ですが、知らないとなれば、像は否定し、彼の無実が証明されます。
ラバーシムはそこまで考えていたのですか」
神官は塔の長をはっきりと侮蔑している。
「ゴーラ神官にお願いがあります」
「私にできることであれば」
「ドティホールン卿がリディティックの罪を暴こうとする時、真実の祭壇に一緒に入れますか」
少し考え。
「可能です」
「では、リディティックに対し質問を1つお願いします」
「何をお聞きすればよいでしょう」
「アシクリ殿を殺したかと、聞いてください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます