第3話 犯人を暴く。

 遂に寝室へと犯人を追い詰めた。


「ーーやっぱりお前だったか、犯人は」


 私は唸る様にそう言う。


 相手は『刃物』を持っているが、全く恐怖は感じない。


 私ならばきっと、問題なく対処できる筈だ。

 そう、信じている。


「私を恨む気持ちも、まぁ分からなくはない。でもそれにしたって、アレはないと思わないか」


 部屋の惨状を思い出して、私は『彼』に抱えていた気持ちを丸ごとぶつけた。


 あれじゃぁ遅くとも明日には新しいカーテンを買ってこなければならない。

 でなければ、おちおち落ち着いて生活する事もできないだろう。




 怒る私に、しかし『彼』は答えようとしなかった。

 それどころか、ツンッとした態度でそっぽを向き、目を合わせようともしない。


 そんな『彼』に、ついに私は強硬手段に出る。


「ちゃんと聞いてるのか?! しらばっくれたって無駄だからな? そのカレンダーの切れ端が何よりの証拠。言い逃れはできないぞ!」


 言いながら、私は『彼』へと両手を伸ばした。

 そしてその胴体をむんずと掴み、持ち上げる。


「確かに昨日のおやつをカレンダーに向けてぶち撒けちゃったのは私が悪かったけど、だからって何もエキス付きのカレンダーを狙ってあんな大乱闘しなくても良いでしょ?!」


 確かに良い匂いはしたかもしれないけど、所詮は匂いだ。

 あの後すぐにティッシュで拭き取ったから、エキスが残っていたとしてもほんの少しだった筈だ。


「そんなに我慢できなかった?! 猫缶」


 ちゃんと約束通り、新しいのを買ってきたのに。


 私はそう主張しながら『彼』の双眸を覗き込んだ。

 すると、青いビー玉のような目がまるでこちらの真偽を確かめるかのように見つめ返してくる。


 そして。


「にゃぁん」


 パサリと、『彼』が咥えていたカレンダーの切れ端が落ちた。


 損ねてしまっていた『彼』の機嫌は、どうやら猫缶アピールのお陰で治ったようである。


「……もう、しょうがないなぁ」


 深くため息を吐きながら、呆れ顔で『彼』を見やる。


 『彼』は気ままな狩人だ。

 怒ったところであまり効果はない。

 こういうのは「仕方がない」とこちらが折り合いを付けるしかないのである。



 せめてもの意趣返し。

 そう思って、私は『彼』をちょっと乱暴に揺さぶった。


 すると宙ぶらりんになっている『彼』の、両足と細長い尻尾が揃ってゆるりと揺れ動く。


 「にゃぁぁ」


 抗議じみた声が、私の耳朶を優しく叩いた。

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『探偵』は、部屋荒らしの犯人を推理する。  野菜ばたけ@『祝・聖なれ』二巻制作決定✨ @yasaibatake

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