第2話 手がかりを拾って。

さて、それでは実況見分だ。



 まず、足の踏み場も無いほどに、無造作に床へと物が晒されている。

 机や棚の上の物はそのほぼ全てが根こそぎ落とされており、卓上の花瓶さえも倒されて、中にあった筈の水がポタポタと床に滴り落ちていた。


 カーテンには刃物のようなもので切り裂かれた跡もあり、本棚代わりにしていた三段ボックスに至っては、ソファーにもたれかかる形で半ば倒れている始末だ。


(……随分と酷いな)


 部屋を物色するにしたって、果たしてこんな過激にする必要があるだろうか。


 ふむ、これはもしかすると。


(物取りよりも、怨恨の線で捜査を進めた方がいいかもしれない)


 顎に手を当てながら、私はそう考える。




 そこでふと、手掛かりになりそうなものが目に止まった。

 壁に貼られているカレンダーだ。


 何の変哲もないただのカレンダーだが、下半分が不自然に破り取られている。

 しかもその片割れは、どこ探しても見当たらない。


(犯人が持ち去った可能性がある、か……?)


 犯人にとって、何か不都合なことでも書かれていたのだろうか。

 それとも、何かもっと別の理由があったのか。



 ーーもしかしたら、これがこの事件の謎を解くカギかもしれない。


 そんな事を思いながら足元の障害物を巧みに避けて、今度は窓際へと近寄っていく。




 事件当時、玄関の鍵は閉まっていた。

 ピッキングなどの形跡もない事から、無理やりこじ開けて押し入った訳ではないと分かる。


 ふむ、窓にもきちんと施錠はされている様だ。

 こちらにも何か細工をした様子は見られない。


 つまり、この部屋は密室だったという事だ。



 合鍵の持ったものの犯行か、何かトリックを使ったか。


 もしくは。


(まだ室内に犯人が潜伏しているか)


 私が部屋に入ってから、この部屋から誰かが外に出た気配は無い。


 玄関の鍵を開けたのは私だ。

 そしてそれまでは密室だったのだから、犯人がまだ室内に居る可能性は十分にある。



 と、その時だった。


 私の視界の端を、何かが素早く通り過ぎる。


「っ! こら待てっ!!」


 私は身を翻し、その影を追った。

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