第一章 出会い
1話 夜間警察官
「え。真昼って
「そうなんだ~!」
「意外かも。夜間警察官って普通の警察官よりも業務が厳しくなかったっけ?」
「そうかもしれないけど、どうしてもなりたいんだ! だから座学も武術も頑張ってるの!」
「たしかに。真昼は成績は上の方だし、努力してるんだね」
「うん!」
高校卒業後、警察官になるために国家試験を受け合格し、晴れて警察学校に入学した。
ちなみに夜間警察になりたいって言っていた私の同期で同じく高卒の
彼女とは寮が同室で、性格は正反対に近いけれど気が合い仲良くしている。
「夜霧は夜警に興味ないの?」
「ないかな。私は普通の警察官になりたくてここにいるから」
警察官は大きく分けて、二つに分かれる。
昼夜関わらず、警察官としての使命を真っ当する普通の警察官。
それと夜を専門にし、影ながら市民を支えている夜間警察官の二つだ。
夜間警察、通称夜警と呼ばれる所に所属している夜間警察官は特別な選ばれた先鋭達がいる場所だ。
真昼ように夜警に憧れている警察官は多く、夜警に選ばれず辞める人も少なからずいるぐらいだ。
ただ夜警の活動範囲は狭く、ここ東京と周辺の県しか活動していないため知名度はとても低い。
夜間警察官は独自の夜間警察庁に所属していることになるが、夜警の上層部は警察庁と夜間警察庁の二つに所属している。
そのため、夜間警察に所属できればすぐにエリートとして出世できる。
夜間警察では高卒、大卒は関係ないらしく完全成績重視らしい。
ただ、あまり成績が良くない人も配属されることがあるらしく、正式に何を重視されているかは不明であった。
不明だからこそ、自分がなれるかもしれないという期待を抱く人が多いらしく、警察学校生にはとても人気だ。
夜間警察官になるために警察学校へ来た人もいるほどだ。
「お互いに、警察官になるって夢は同じだけれど、その先が違うね」
「そうね。お互いに希望している所へ配属されたらいいね」
夜警は先鋭が選ばれる所だから、平々凡々の私が選ばれるはずない。
私は普通の警察官になって、国民のために立派に働きたい。
ただ、それだけのはずなのに……
「松木。ちょっといいか?」
「教官。はい」
座学の授業が終わるとなぜか教官に呼ばれた。私は教官に何も聞かず、黙って着いていった。
行き先は応接室を呼ばれる、来客をもてなす部屋であった。
「失礼いたします」
部屋のノックをし、中に入ると、ふかふかとしていそうなソファに黒を基調とした制服を着用している男性と、私と同じ赤い瞳をしている警察学校生と思われる男性がいた。
「では、私はここで」
教官は私を案内するだけだったのか、すぐに部屋を退室してしまった。
私が同じ警察学校生の隣に座らせてもらい、制帽を脱いだ。
「君達は、
「「はい」」
警察学校生である男性は坂井深紅さんと言うらしい。周辺の教場でも武術の授業でも見かけたことがないから、大卒の警察学校生なのかな?
隣なのであまりジロジロ見ることができず、私は観察を諦め再び男性の方を向いた。
「では単刀直入に。君達二人は“夜間警察”に配属されることになった」
「え」
驚きすぎて、呆けた声が出てしまった。
夜間警察に配属されるってどういうことなの? 私は優秀というわけではない。特別何かが飛び出ているわけでもないのに。
どうして、私が夜間警察に……
「詳しく説明していただきたいんですけど……」
坂井深紅さんも戸惑った様子でそう聞き返していた。
私も聞きたい。言い返してくれて凄く助かった。
「私の名は矢吹。夜間警察の最高管理者だ。君達二人を夜間警察官として任命するために直々にここへ来たのだ」
「その、私が夜間警察に配属されて、夜間警察官になるのってどうしてですか? 夜間警察官は優秀でないとなれないはずじゃ……」
「その辺りは配属されてから先輩に聞くと良い。もしくは先輩に聞かなくても分かるかもしれないがな」
配属理由を濁された。
成績で配属されるってわけじゃないってことね。尚更分からなくなってしまった。
「それって、拒否できることっすか?」
「無理だろう。これを拒否するということは警察官にならない、と判断される」
「そんな……」
それじゃ、私は父さんのような立派な普通の警察官には……なれないんだ。
重要な事実を淡々と突きつけられ、ショックで開いた口が閉じない。
でも、ここでショックを受けていても事実が変わることはない。私の道はもう、決められてしまった。
「それぞれに警察官への想いがあるのは理解しているがこればかりは仕方のないことだ。了承して、自ら決意してくれると私は、夜間警察としては嬉しいよ」
「分かりました。俺は普通お警察官になりどこかの部署に入りたいというこだわりがないので了承します」
坂井深紅さんは即決したようだ。
どうしてすぐに決められるの? 年の差、なのかな……
「松木くんは?」
「……少し、考えさせてもらうことは可能でしょうか」
「構わない。だが松木くんは特例として大卒の坂井くんと同じ時期に卒業してもらう。それまでに決意を固めてほしい」
「分かりました」
私は矢吹さんに敬礼をし、制帽を被り部屋を立ち去った。
ショックで頭が正常に回っていなかったのか、途中扉や壁にぶつかったりした。
「なぁ」
無意識に急ぎ足で寮へ帰ろうとしていると先ほど、同じく夜間警察に配属されると言われていた同じ警察学校生の坂井さんに呼び止められた。
「何でしょうか」
ここで笑顔で対応する気力が今の私には残っていなかった。
よって無表情で対応することになるけれど、そこら辺は考慮してほしいな。
「松木さん、だったよな? 俺、坂井深紅。よろしく」
「よろしくお願いします」
私は先輩であろう坂井さんに向かってビシっと敬礼を決めた。
そんな私に苦笑した坂井さん。どこかおかしかっただろうか?
「んな堅苦しくしなくていいって。どうせ夜間警察に配属されれば同期なんだし」
「そう、ですね」
夜間警察の同期は、私と彼だけなんだろうか?
それとも部署が違うから二人だけ呼ばれたのか分からない。
夜間警察は公表されていない、秘密の部分が多すぎるから……
「何か、普通の警察官になりたい特別理由でもあるのか?」
夜間警察に配属されると言われた時、私はそんなにショックな顔をしていたのだろうか? 見破られている。
「はい。でも、強制的ならもう諦めるしかあません。決意を固めるしか……ないんです」
場所が違っていても、名称が違っていても“警察官”であることに変わりはない。
そうだよね、父さん……私は父さんと違う場所でも立派な警察官になれるよね?
「そうかよ。俺に合わせてここを卒業するのは悪いな。仲良い同期とかいるだろ?」
「まあ」
そっか。私は真昼や苦楽を共にした同期達と一緒に卒業できないんだ。
また大きなショックを受けてしまった。でも、しょうがないよね……だってどうしようもないんだもの。
「坂井さんは気にしないでください。それでは、失礼します」
再度敬礼をし、それに苦笑した坂井さんに背を向け、寮へ戻った。
「あ、夜霧おかえり!」
寮へ戻ると疲れていたのか、寛いでいる真昼がいた。真昼の変わらない笑顔を見ると、急に泣きそうになった。
ショック受けたり、諦めたり、泣きそうになったり今日の私は喜怒哀楽が激しい。
「え。どうかしたの!?」
泣きそうになっている私を見た真昼は、すぐに駆け寄ってきた。
真昼、ごめん。
「真昼。私ね……」
私、夜間警察に配属されることになっちゃったよ。
「嘘……」
「ごめん、ごめんね」
私は俯き静かに泣いた。真昼の顔を見ることができなかった。
真昼への悔やみと何故自分が選ばれたのか分からない恐怖心。
同期になる坂井さんと上手く行くかも分からないし同期の皆と卒業できないことが苦しい。
「謝らなくていいよ。逆に夜霧が選ばれて私は誇らしいよ! 無茶なこと言うけどね。私の代わりに夜警で頑張ってほしいの」
「真昼……」
顔を上げると涙を流しながら笑っている不器用な真昼がそこにいた。
顔はすでにくしゃくしゃで、窓から来る風で髪は揺れている。
「お互いに夢と反対の道に進むことになっただけ! 夜霧は辛いかもしれないけど私は受け入れるよ」
そう言いながら真昼は涙を拭った。どこか、吹っ切れたような顔をしている真昼に、更に涙が零れた。
「うん、私も進むはずの道じゃないけれどそこで頑張るよ。ありがとう、真昼」
「うん!」
お互いに零す涙はお互いの衣類に消えていった……
ありがとう、真昼。
私、夜間警察で夜間警察官として頑張るね。
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