5話 制服
「夜霧~ダンボールの荷物届いてるわよ」
「は~い!」
この時期に私宛のダンボールに入っている荷物。これは夜間警察の制服だろう。
私はリビングに行き、わくわくしながらダンボールの封を切った。
「まあ、かっこいいじゃないの!」
ダンボールの中には予想通り、夜間警察の制服が入っていた。
夜間警察の最高管理者、矢吹さんが着ていた制服とは少しデザインが違うけれど、大きく変わっている部分はない。
変わっている部分は胸あたりの装飾品が少し少ないだけだ。これは階級の違いだろうし、特に気にならない。
黒を基調とされている、白のラインが入っている制服。胸ポケットがあり、ハンカチティッシュなどは入りそうだ。
ジャケットを取り出し、中のものを全てダンボールの中から取り出した。
白のシャツに黒のネクタイ、細めの黒のズボン。そしてジャケットと同じ、黒を基調にされ、白のラインが入っている制帽の五つが入っていた。
ズボンには左右にポケットがある。ポケットはいっぱいあって、何かを入れるのに困ることはないだろう。
「着てみなさいよ!」
「うん」
うきうきした様子の母に少し急かされるように、私は制服を着た。
きちっとしているけれど、きつくはない。あんなに細かく採寸したのは動きやすさ重視のため、少し緩やかに作るためなんだろう。今になって、理解できた。
「まあ、似合ってるわ!」
制服を着て、浅く制帽を被れた夜間警察官、松木夜霧の完成だ。
鏡で己を見るけれど、自意識過剰気味になるけれど、この制服は似合っている気がする。
白のラインが入っていなければ、真っ黒なのが少し気になるけれど……
「写真撮りましょう! カメラ取ってくるわ!」
母さんは私の制服姿を見て更に興奮したようで、少し焦った様子で部屋へカメラを取りに行った。
帰ってくるとカメラを構え、私をモデルかのように扱った。
「ほら、ポーズして!」
「えっと……こうかな?」
気合が入っている母の圧に負け、渋々ポーズを取っていると私も少しずつその気になってくる。
ダサいけれど、沢山のポーズを決めそんな私を飽きずにパシャパシャカメラに収めている母は、変人なんだろうか。
「あー! お姉ちゃん制服着てるー!」
「かっこいい……!」
廊下に繋がる扉が開く音がして、そちらを見ると赤と黒のランドセルを背負っている香奈と奈緒が見えた。
時計は十六時を少し過ぎた時間を指している。丁度学校が終わり帰宅してくる時間だった。
「香奈もお姉ちゃんと写真撮るー!」
「僕も!」
ランドセルを乱暴に地面に置いた二人が乱入してき、撮影会はそれから三十分ほど続いた。
久しぶりの家族写真だったんだ。大人げなく、楽しんでしまい少しは恥ずかしかった……
「ふぅ」
撮影会が終わり、母は晩御飯の準備を。
香奈と奈緒は制服を着ている私を見て、まだ目をキラキラと輝かせている。
そんな二人の視線に耐えられなくなり、着替えることを口実に一旦部屋へ戻った。リビングでは邪魔になるからダンボールも一緒に。
「あれ? なんだろう、これ」
制服を取り出した時には気づかなかったけれど、ダンボールの奥底には一枚布があり、その下には細長い何かがある。
布を取り出し、中を覗くとそこには……
「鞘?」
刀などを仕舞うあの鞘のみがそこにあった。謎に威圧感のある鞘を見て、頬が引きつった。
鞘の色は水色で、時代劇などでもあまり見ない珍しい色だ。
「でも、どうして鞘が? 何に使うのかな」
このダンボールに入っていたということははこれから夜間警察で使うのだろうけど何故鞘なのか謎だ。
鞘以外は入っていなく、本当に鞘だけがドンと入っていた。
「持っていくか」
まだ制帽をベットの上に置き、クローゼットからハンガーを取り出し制服を脱ぎ引っ掛けた。
鞘はダンボールに戻さず、寮へ持って行く準備をしている鞄の中へ入れた。
「これでよし」
夜間警察官が住む寮へ入るのは二日後。家族とゆっくりできるのも後二日だけか……
やっと警察官としての仕事をできることが嬉しいのか、これから本格的に家族に会えなくなるのが寂しいのか。
色々な気持ちが入り混じり、ドロドロとした感情が浮き上がってくる。
「ダメダメ。弱気になったらダメよ、夜霧。これから家族のために頑張るんだから」
頬を強めに叩き、気合を入れなおした。
家族がこれから幸せに暮らせるように私が頑張る。私が頑張らないと、しっかりしないと父さんも心配しちゃうから。
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